4-7 ガウンムア奪還作戦 その7 剣士かく戦えり
~~剣士かく戦えり~~
「くっ!奴ら街道の真ん中を堂々と!射撃開始、撃てぇ!」
魔道銃部隊の隊長が叫ぶ。
先頭の魔人数名が魔道障壁を展開した。
魔道銃が放つ石弾はすべて防がれる。
多数の魔人が討伐軍の陣のただ中に現れる。
乱戦が始まった。
拳銃タイプの魔道銃を持っている兵士は何とか戦えたが
空を巧みに操る魔人になかなか当たらない。
「へっ!こうなったら銃より剣の方が有効だぜ!」
王家直属の騎士団から討伐軍に編入されたハウエル曹長は
ロングソードを振り回し始めた。
2人の魔人を屠り掩体に身を隠す。
そこに一人の剣を持った男が駆け込んできた。
「ハウエル曹長!流石ですね、お見事であります!」
「バーンズ軍曹。君もな」
ハウエルとバーンズは互いに剣の腕を競い合った仲だ。
魔道銃部隊が幅をきかせるようになってから肩身の狭い思いを
してきたが今日は違う。
「バーンズ、連中は神出鬼没だ。どこから出てくるかわからん。
背中を任せてもいいか?」
「俺で良ければ任せてください」
「よし、行くぞ!」
お互いの背中を守りながら小さな町のメインストリートに行く。
「おっと、あぶねぇ。味方の流れ弾に注意しなきゃな」
「曹長、右です!」
ハウエルは現れた魔人が何かをする前に足をなぎ払う。
倒れた魔人の心臓の辺りにバーンズが剣を突き立てた。
「良し、次行くぞ!」
メインストリートには敵味方双方の死体が至る所に転がっている。
ふと気がつくと戦闘の音が止んでいる。
「おかしい。魔人共が突然いなくなった」
生き残った者は次々にメインストリートに集まってきている。
そこに伝令が飛び込んできた。
「伝令!魔人共はさらに東に進出しました!」
「我々はスルーだと?なぜだ」
答えはすぐに西からやってきた。
「西から新たな魔人の軍!今度は大量の魔物を引き連れてます!」
小さな町になだれ込む大量のコボルト、オ-ガにオーク。
皆剣を振りましている。
「くそっ!なんて数だ!銃を持ってる奴は全員屋根の上に上がれ!
剣士は俺に付いてこい!」
呼びかけに応じたのはわずか1人の剣士だった。
「曹長、軍曹。結局元騎士団の我々だけですね」
「ザウリ伍長、君か」
三人とも討伐軍に編入されて以来魔道銃の訓練に勤しんできた。
そしてこの新兵器がどれほどの威力を持っているか良く知っている。
訓練を重ねるうちにもはや剣の時代ではない事を
嫌と言うほど思い知らされてきた。
が、理屈ではない。
剣に生きると己に誓った愚直な男達は
剣と共に散る覚悟をも決めていた。
「バーンズ軍曹、ザウリ伍長。
冥土への渡し船はそろそろ満席だぜ」
「でしょうね。
ま、その時は三人で三途の川を泳ぎましょうや」
屋根の上から一斉に射撃が始まった。
かなりの数の魔物がもんどりを打ち通りに転がる。
が、取りこぼした魔物達は奇声を発しながら三人の剣士に
突進してきた。
~~勇者のパーティ~~
「魔人の部隊は主街道を進撃してきたそうだ。
俺達も応援に向かう。
ギルバートとダレスは一緒に行こう。
セシリアはここで待機。必要ならすぐに呼びに来る」
全員がうなずいた。
俺はギルバートとダレスの手を掴み空間を繋ぐ。
一度討伐軍の小隊を運んでいるので迷うことなく一度で
前線になっている町に行けた。
付いた先は戦闘のまっただ中だった。
「建物の屋根の上から狙い撃ちしてるみたいだね。
ギルバート、アソコで剣を振ってる兵が居る。
助太刀行ってくれる?」
「お安いご用」
ギルバートは剣を鞘から抜き走っていった。
「ダレス、考え無しに片っ端から魔物をぶん殴れ!」
「わかったよ!ホントに考えないからね!」
ダレスは魔物の群れに目にもとまらぬ速さで突っ込んでいった。
勢いで数匹の魔物が宙を舞う。
「タックルだけであの威力か。いつ見てもすげー」
俺は屋根の上にいる兵に声を掛けた。
「おーい、カートリッジは足りてるか?」
「勇者殿でありますか?援軍感謝です!
カートリッジは残り少ないであります!」
「わかった、今持ってくる」
再び議会町に引き返しカートリッジが詰め込まれてる
魔道収納バッグを担ぎトンボ返り。
さきほど受け答えをした兵の後ろに降り立つ。
「持って来たよ」
「うわっ!びっくりした!あ、ありがとうございます。
おいみんな、予備弾倉が届いたぞ!」
各屋根を飛び回りカートリッジを渡して廻る。
「まだいっぱいあるからね。撃ちまくれ!」
あらかた配り終えた所で上空に移動。
水平に保った魔道障壁の上に座り辺りを見渡す。
「街道の先にはまだテイマーが魔物を連れて控えているな。
どれ片付けておくか」
空中に留まったままトルネードを数本発生させ、
控えてる魔物の部隊に向かわせた。
空中に巻き上げあれた魔物共はトルネードの頂点で解放され
地面に叩きつけられる。
最初の竜巻をやり過ごした一団が突撃を開始。
「行かせないよ」
自分が居る位置から突風を発生させ同時に散弾状の石弾を
多数発射。一瞬後に動く者は居なくなった。
「これで町中の魔物をやっつければここはオッケーだな」
~~ギルバート~~
「助太刀するぞ!」
ドワーフ製の日本刀は軽い。
今まで使っていたロングソードはそれなりの重さがあったが
同時に斬撃を繰り出せる利点があった。
一撃必殺にはロングソードの方が向いている。
この新しい刀は軽いが故にスピード重視なので
今回のような乱戦に向いているのだ。
切っ先で敵のクビを斬りつければ大概の場合
出血多量で戦闘不能になる。
とどめを刺す必要が無いのでサクサクと次の標的に
集中できる利点がある。
「ハウエル君、妙な所で会うね」
「くっ!ギルバート少佐!おらぁあっ!ぜいぜい・・・」
ハウエルはひるまぬ敵にケリを入れ強引に隙を作り
ロングソードを振り下ろしていた。
そうだ、こいつはこういう奴だった。
普段は型を完璧にこなす美しい太刀筋を見せるのだが
余裕の無いときは勝ちにこだわるあまり
なりふり構わぬ戦法で相手の体勢を崩す。
士官学校時代の試合で相手にケリをいれて失格になってたっけ。
二人で辺りに居た魔物はあらかた屠った。
「少佐殿、どっから沸いて出たんです?」
「人をボーフラみたいに言うなよ。お前一人か?」
「いいえ、バーンズとザウリも一緒だったんですが乱戦で
ちりぢりになっちまいました」
あの二人もいるのか。
まさかここで同門が四人顔をあわせるとは。
「よし、探して助太刀するぞ」
俺もハウエルも剣の血糊をぬぐい通りを進んだ。
「おい、あそこに倒れているのは?」
「バーンズ!」
ハウエルはバーンズに近寄り顔を叩いた。
「おい、生きてるんだろ?返事しろ!」
「へ・・・へへ。曹長はご無事のようで。
俺は腹を貫かれました。もういくらも保ちませんや」
「ハウエル、バーンズ。ここで待ってろ。
エリックに頼んで聖女様を連れてきて貰う」
エリックと降り立った地点に戻った。
上空を見るとエリックが宙に浮いていた。
「聞こえるかな?おーい、エリック!エリックゥ!。
お、聞こえたみたいだ」
エリックはすぐに俺の目の前に降り立った。
「仲間が重傷だ。セシリア嬢ならなんとかなると思うのだが・・・
頼めるか?」
「わかった、ここに居てね!」
エリックは空間に消えたがものの一分もしないうちに
セシリア嬢の手を引いて空間から姿を現した。
「ギルバート、現場に連れて行って!」
三人で走る。
「バーンズ、待たせたな。聖女様、頼む」
「わかったわ。上着を引きちぎって傷口を見せて。
誰か水持ってない?」
「俺が出すよ」
エリックが傷口を水魔法で洗い流す。
セシリアが手をかざし治癒を始めた。
「ハウエル、ザウリを探しに行こうか。
エリック、ここを頼む」
ハウエルと二人であちこち探す。
至る所に敵味方双方の死体が転がっている。
「いた」
ハウエルが倒れているザウリの所に駆け寄る。
顔が真っ青だ。
俺はうなじに手を当て脈を探ってみたが・・・
「もう事切れている」
「ザウリ・・・・・よく頑張ったな」
バーンズは重傷を負いザウリは戦死した。
三人とも銃は使わず剣だけで戦っていた。
彼等は骨の髄まで剣士なのだ。
そして愚直で不器用でもある。
俺は妹のタチアナと妹の婚約者であるマイクルの仇を討つために
一度は剣を置いた人間だ。
勝つためには己の小さなプライドは邪魔なだけであると
判断した。
だが彼等は例え不利だとわかっていても
剣に生きると誓ったあの日の自分に正直で居続けたのだ。
俺は彼等をうらやましく思った。