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1-12 聖女はユカリ その2

 教会からの帰り道は少し遠回りをして帰ることにした。

家とは反対方向のゆるやかな坂道を降りていくと海が見えてくる。


 港前大通りを突っ切り反対側に渡るとそこは商店街。

食事処やおみやげ物屋まである。


 魚屋の威勢の良い呼び声、人混み。

活気にあふれた港町商店街を通り抜けると海に面した公園にで出る。

少し遠くに大きな船数隻が停泊している。

手前には大小様々な漁船が海に浮かんでいる。


 その間を縫うようにして一隻の船が近づいてきた。

沿岸パトロール船だ。

波止場のあたりが急に騒がしくなる。

行ってみよう。


「タンカ持ってこい!こいつはまだ助かるかもしれん!

軽傷の奴はすまんが歩いて救護室に行ってくれ!おい、早くしろ!」


 なにか事故が起きたのだろうか。

けが人が多数船から降りあるいは下ろされてされていく。


 そばにいた漁師さんっぽい人に尋ねてみる。

「沿岸漁業船団がシーサーペントにおそわれたそうだ。

8隻で行ったはずだがすべて沈められた。

海に浮かんでた生存者を沿岸パトロールが救助してきたそうだ」


「ありがとう、おじさん」


 救護室に行ってみた。

漁業組合専属の医師が数人の看護人に指示を出している。


「軽傷者はそっち!そう、テーブルのある部屋だ。

血止めをしてお茶でも飲ませとけ!

重傷者は奥のベッドに運べ!

そっから先は一般人立ち入り禁止だぞ!

ん?なんだお前は?」


 救護室を堂々とのぞき込んでいたら医師に見つかってしまった。


「あ、あの!自分は、えと・・か、簡単な治癒魔法なら使えます!」


「おお!教会から来たのか?違う?一般人か。

ともかくワケは後だ。軽傷者を見てやってくれ!」


 そう言うと医師はばたばたと奥の部屋に行ってしまった。

女性の看護人がコッチに来てと叫ぶ。


 いきなりだけどたぶん大丈夫。できるはず。

その男性は腕が折れているようだ。


 かなり大きな裂傷もあるがすでに出血は止まっている。

男性には目を閉じ力を抜いてくださいと伝えた。

あんまり意味はないかもしれないが

なんとなく落ち着いてくれてた方が

やりやすいと思ったからだ。


 両手の親指を患部に当て念じてみる。

おへその裏側あたりからぞわぞわと

何かがわき上がってくるような感覚がある。

その何かを両手の親指集めて見た。


 変な方向に曲がっていた腕が少しずつ元に戻り、

裂傷もジワジワと閉じて行く。


 傷口は完全にふさがり一本の筋状の傷痕が残るのみとなった。

男性は不思議そうな顔をし、折れていたハズの腕を軽く回した。


「いてっ!まだ完全にはくっついてないみたいだな。

しかしこれだけ治れば充分だ。お嬢ちゃんありがとうよ!

次の奴を見てやってくれ!」


 全員が骨折及び裂傷等だった。同じ要領で直していく。

少しづつではあるがコツがわかってきた。

 

 軽傷者を治癒したあと奥の部屋に勝手にはいっていいものかどうか

迷っていると教会からシスター達が到着した。


 その中には先ほどカウンセリングをしてくれた

年配のシスターもいる。


「あら、セシリアさん、でしたっけ?なぜここにいるの?」


 理由を説明する。

怪訝な顔つきから真剣な顔つきになったシスターが

着いてきて頂戴と言う。

黙って後をついて行った。


 重傷者の部屋は凄惨だった。

血まみれの包帯、うめき声、医師の怒号。

一番手近なベッドに横たわる男性を見る。


 頭に巻かれた包帯からは血がにじんでいる。

両手両足は無事なようだが

腹部がやられているらしく内臓が一部露出していた。


 新人なのだろうか、若い女性の看護人が患者の腹部を手で押さえ

泣きそうな顔をしていた。


 傷口はすでに消毒したらしい。

後は医師の縫合待ちだというが

患者の顔色はすでに青白く呼吸も浅くなっている。


 看護人にはそのままで居て貰い自分は両手の親指を傷口にかざす。

おなかからわき上がる何かを加速させ親指に可能な限り集める。

見た限りでは内臓の損傷は見受けられない。


 しかし素人の検分などたかがしれている。

魔法が効く範囲をやや広く深くしてみよう。


 胴体全体を覆うように両手の親指で円を描き魔力を込める。

少しずつ傷口がふさがっていった。


 頭部の裂傷も出血は止まっていたが、放置はしておけない。

傷を合わせていく。


 幸いにもこの患者は毛髪がないタイプだったので

処置はしやすかった。


 さあ、次は誰!と、立ち上がったところで

めまいが起き私はそのまま昏倒してしまった。


 目が覚める。

どれくらい気を失っていたのだろうか。


 上半身を起こすとシスターが近寄ってきた。

どうやら気絶した私を奥のベッドに寝かせてくれたらしい。

小一時間ほど寝ていたみたいだ。


 患者の措置は終わり、

引き続き治療が必要な重傷者は病院へ運ばれたそうだ。

残念ながら助からなかった方も数名いたらしい。


 一通りの説明が終わったあと、シスターが質問してきた。

「セシリアさん、いつから治癒魔法を使えるようになったんです?」


「つい・・・・さっきです」


「あなた、おうちはどこかしら。山手のほうなの?

じゃあ、港は反対側じゃない。なぜここにいたの?」


「教会を出てからなんとなく散歩したくなって」

シスターはなにか考えるようにあごに手をやる。


「導かれたのかもしれませんね」


「は?導かれた?」


 真っ先に鈴木の顔が思い浮かぶが

別にそんな指令は受けていない。


「イリシスの神にです。

あなたが港にやってきたのは偶然ではないかもしれませんね。

それに、あなたが使った魔法はどう見ても初心者には見えません。

私が知る限りではあなた程の才を持って生まれた者は他にいません。

教会においでなさい。あなたなら聖女様になれるかもしれないわね」


 ニコリと微笑むシスター。

ひきつる笑顔のわたし。

 

 誰かの思惑通りに事が進んでるような

妙な感覚を覚え頬が引きつってしまった。


 動き出した「何か」がなんなのかを

完全に知るまでは流されてやるわ。


「私、教会へ行きます!」


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