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4-4 ガウンムア奪還作戦 その4 平民ベルトラン



~~アレックス~~


 ツイーネ南端の拠点に到着しエリックと合流。

ガウンムアまで連れて行って貰った。

早速王城に行きリチエルド国王に会った。


「アレックス王子殿下、此度の支援感謝してもしきれません」

「リチエルド国王陛下、まだ終わってませんぞ」

「そうでした。ここからが正念場ですね。

それと改めてお礼を言わねばならないことがあります。

両親の仇、ヴァレリ中将を討っていただきありがとうございました」


 国王は胸に手を当て片膝を付いた。

「陛下、どうぞお顔をお上げください。

ヴァレリは我々の仇でもあったのです」


 謁見を終え私は討伐軍の陣に帰った。

「戦況は?」

クルベ将軍が簡潔かつ正確な報告をした。


「なるほど。クレイグは練兵場に陣を張っているが

進入は難しいのだな。それにしても誰も帰って来ないとは」


 幾つかのプランが頭に思い浮かぶ。

どれを選択するか、選択した後の展開は?などを考えていると

伝令が飛び込んできた。

「殿下!ガウンムアの西部にパールバディアの魔人軍が応援に

駆けつけました!」


「ふむ・・・・・クルベ将軍。討伐軍は何名こちらに渡ってきている?」

「ルド王国討伐軍2万、サフラス軍5千、グレンヴァイス軍8千です」

「魔道銃は行き渡っているか?」

「十二分に」

「よろしい。エリック、老師殿。スマンが西部地区の

主な町の近くに魔道トンネルを開いてはくれまいか」

「ええ、もちろんです。今現場を見てきましょう。

地図はありますか?」


 ガウンムアの兵が地図を持ってきた。

「ではエリックは西部中央の議会がある町へ。

老師は海側のこの漁港へトンネルを開いて欲しい」


 エリックと老師が空間に消えた。

小一時間で戻ってくるそうだ。

「クルベ将軍。練兵場を囲むように南北から反対側を制圧しよう。

南にサフラス軍、北にグレンヴァイス軍を配置。

我が討伐軍もそれぞれ千名づつ加えよ。

残り1万8千の将兵は西部地区の防衛に向かう。

一時間以内に装備を調えよ。

ベルトランはいるか?」


「ここに。殿下」

「バッグ持ちは何名いる?」

「各小隊に2名ずつであります」

「一人には予備のカートリッジを、一人は糧食を持たせろ。

セシリア殿。聖女隊は今何人動けますかな?」

「私とクロエ、他15名です。5名は東部に行ってます」

「では西部に聖女一人と聖女隊7名を派遣して欲しい。

人選は任せます」


 エリックが偵察から帰って来た。

「確認してきました。議会町は制圧が完了してます。

町の西側の草原に陣を張れそうですね。

そこを拠点に各地に兵を分散させればいいかと」

「ありがとう勇者殿。さっそくやってくれるか?」

「ちょっと困ったことがあって。魔石が足りないかもしれません」

「ベルトラン。魔石は?」

「海を渡るのに大半を消費しました。

こちらの冒険者ギルドから買い取ってきましょう」

「速やかに頼む。エリック、老師殿。

今ある分でできるだけ運んではくれまいか?」


 エリックが進言してきた。

「練兵場を囲んだら塀を破壊しましょう。

俺がダレスを運んで壁に穴を開けて廻ります」

「そうしてくれるか。だが西側への進軍が先だ。

応援部隊を王都にまで来させてはならん。では作戦開始!」


~~ベルトラン~~


 兵站を任されて以来各地の戦場に物資を届けてきた。

殿下と士官学校の同期であったこともあるのだろう出世は早かった。

今は中佐の階級章をつけている。


 物資を届けるのに手っ取り早いのはくう使いに

魔道収納バッグを持たせることである。

だがさすがに万を超える部隊となると船便にや馬車で武器や食料を

運ばなくてはならない。


 これらの配置や運行計画を立てたりするのは一人では無理だ。

全体を見渡し調整をしつつ部下に指示を出す。


 それと殿下には黙っている事がある。

それは私独自の諜報部隊を持っていることだ。

物資輸送部隊が敵に襲われることを

防ぐために数名のくう使いに偵察を命じたのが始まりだ。


 だが今では私の諜報部隊は国の機関のソレにもひけを取らない

優秀な部隊に育っている。


 その部隊の一人が偵察から帰ってきた。

「中佐。やはりパールバディアから渡ってきたのはくう使いの

精鋭部隊ですね。残りは船で運ばれる予定。その数1万」

「ご苦労さまでした。現地で調達できる物資は?」

「各農村に小麦の備蓄がかなりあります。

今年は豊作だったようですな」

「では正規の値段に少し上乗せして取引を。

それと各冒険者ギルドにも連絡をつけて魔石も買い取ってくださいね」

「御意に」


 パールバディアか。

確か今は内務のスパイが長期潜入しているはずだ。

もちろん私の部隊も極秘裏に出入りしている。

先に情報を掴んでおけばいざ有事の際に

輸送計画も立てやすくなるのが理由だが

私が興味を引いたのはパールバディアの新しい政治形態だった。


 国民会議なる国民から選抜された者が政治に加わるシステムが

導入されたと聞く。

成人している国民であれば誰でも立候補できる。

そう、平民であったとしてもだ。


 戦死したマイクル、タチアナ、ダニエル。

それに今ここにいるアレックス殿下。

彼等は士官学校の同期だ。

士官学校は身分の分け隔て無く優秀な者は誰にでも門戸を開いている。

表向きには。

 

 いくら成績優秀者には奨学金の支給や学費免除をすると言っても

貧乏な平民の子は参考書はおろかノートすら買えない。

ようするにスタート地点にすら立てないのだ。


 どんなに頭が良くても経済的に恵まれない家庭で育った

平民の子にとっては士官学校に入学するなど夢のまた夢であった。


 平民でしかも母子家庭で育った私が

どれだけの苦労をして試験に合格したかなど貴族王族の

師弟にはまるで興味のないことだったのだろう。


 入学しそして卒業し今に至るまで誰もそんな事を尋ねてこなかった。

もちろん自分から言うことでもないので黙っていたが。


 が、私はやってのけた。

あるかないかの隙間に指を差し込み強引に重い扉をこじ開けた。


 働きながら時間を見つけ睡魔と戦いながら

勉強してきた甲斐があったというものだ。


 彼等は私に対して優しく接してくれた。

そのことにはもちろん感謝しているし仲間意識は当然ある。

しかし同時に絶対に越えることの出来ない

身分の差という物は意識しないわけにはいかず、

彼等との間にある見えない壁は常に存在し続けている。


 パールバディアでは平民でも政治家になれる。

そのシステムの元になったのは魔人の国を運営する

十二人会議という議会だと聞いた。


 素晴らしい。


 誰もが平等にチャンスを与えられる。

成功するか失敗するかはやってみないとわからないが、

少なくともチャレンジする権利は誰にでもあるのだ。

任期があるとはいえもしかしたら一国を代表する

立場にだってなれるかもしれない。


「ベルトラン中佐。どうした、考え事か?」

「・・・・殿下。いえ、私の斥候部隊が掴んだ情報では

西部地区に来たのはくう使いの精鋭だそうですね」


「そうであろうな。連中も時間をかけるつもりはないのだろう」

「バッグ持ちは優先して運んでください。

それと同時に魔石や小麦の買い取りも行いますので

資金のほうもお願いします」

「わかった。リチエルド国王が資金面でも援助してくれるそうだ」


 今はこの戦争を勝利に導く事に専念しなければならない。

自分に与えられた職務は期待された以上に全うしようと思う。


 それとは別にパールバディアとは事を構えて欲しくないと願う。

戦争が終わったら国交は復活するのだろうか。

それとも断絶したままなのか。

 

 戦後に退役してパールバディアに行けば

私でも政治家になれるだろうか?

いや、生粋の国民でなければ信頼されないかも知れない。


 それでも、それでもだ。

新しい政治システムに明るい未来を思い描かずにはいられないのだ。


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