4-3 ガウンムア奪還作戦 その3 「鈴木め」
~~ギルバート~~
魔人の軍が本格的に市内に攻め込んできた。
奴らは王城前に敷設した討伐軍の陣には目もくれず
市内に散らばっていった。
クルベ将軍が号令を出す。
「奴らは一般市民を狙うだろう。
各自市民の安全確保を最優先とせよ。
訓練通り2~3人一組で行動するように。
一般市民の避難状況は?」
ガウンムアのレジスタンスの一人がが駆け寄ってくる。
「すでに戦闘に参加できない者は南の草原に用意したシェルター
に移動を開始しております。
が、まだ全員ではありません」
「そうか、では見つけ次第ここに連れてくるように
通達しよう」
「ありがとう御座います!。ソレともう一つ。
銃を持ったオバチャンは戦闘員であります」
「なに?オバチャンが戦っているのか?」
「はい、魔道銃の取り扱いは簡単です。
それに我が国でもっとも強い生物はオバチャンであります!」
「やはりそうか!我が国もだ!」
「将軍私も市内に向かいます」
「ギルバート少佐はここで殿下を待っていてはどうかね?」
「いえいえ、王城では準備運動にすらなりませんでしたからね。
いい汗かいてきますよ」
「わかった。少佐のことだから心配ないが
注意してくれ。それからオバチャンと同士討ちになるなよ」
「ははは、さっきの会話は聞こえてました。
やはりどこに行ってもオバチャンは強いですな。
では!」
盾を外し鎖帷子を着る。
銃のホルスターと予備弾倉も外す。
「身軽になった。今なら空飛べるんじゃないかな?」
日本刀は予備も含めて数本持ってきてある。
以前のメイン装備であったロングソードと同じリーチの刀を抜く。
短めの刀一本は鞘ごと背中に担いだ。
まずは商店街を抜け住宅街を目指す。
空を使い現れる魔人は神出鬼没だ。
一瞬の判断の遅れが命取りになる。
若い頃剣の師匠が話してくれたことを思い出す。
集中力が極限まで高まると後ろまで見える。
正確に言うと気配で察知出来るようになると。
少年だった俺はなにを言ってるのかさっぱり理解できなかったが
今ならわかる。
背後に誰かの息づかい。およそ5メートル程。
振り返り間合いを確かめながら踏み込み躊躇無く剣を振り下ろす。
浅かった。剣の切っ先は魔人の服を斜めに切ったのみ。
しかし魔人の動きはまるでスローモーションのように感じる。
一歩踏み込み心臓の辺りを突いた。
魔人は目を見開き両手で日本刀の刃を握りしめたまま倒れた。
「恨むなよ」
剣の血をぬぐいさらに奥を目指す。
十字路に差し掛かり建物の影から死角を伺った。
二軒先の窓から発砲している。
突然姿を現した魔人は数名が放つ複数の銃弾に対応しきれずに
被弾した。
建物のドアが開き一人のおばちゃんが銃を構え飛び出して来た。
魔人は膝を地面についたまま石弾を放つが
オバチャンの指がトリガーを引く方が早かった。
「オバチャンやるねぇ!」
「軍人さんかい?ここいらは一般市民の待避は終わっているよ」
「そうかい。カートリッジはまだのこってるかい?」
「予備はほとんどないよ」
「王城前に敷設してある陣に向かいな。
そこで予備を貰える。
が、出来れば避難所に行って飯炊きに加わってくれないか?」
「そうさね。軍人さんが出張ってくれるならアタシらの出る幕じゃないね。
おーいみんな、王城に向かうよ、出ておいで!」
出てきたのは旦那とおぼしき痩せてるおっちゃんと一人の青年だった。
「旦那と息子だよ」
「家族でレジスタンスの戦闘員やってるのか。頼もしいな」
息子とおぼしき青年が答える。
「ええ、国の一大事ですから!」
「ご苦労さん。陣に行ってなにか食い物でももらいな」
俺はさらに先に進んだ。
市街地も王城から離れると建物はまばらになってくる。
人の気配はほとんど無い。
「よし、俺も一度陣に帰るか」
~~ボイド上級尉官~~
「ではグレイン少将、空部隊200名を連れて行きます。
一般兵はどれくらい動かせますか?」
「非戦闘員をも含めると1万だ。すぐに船の手配をする」
「充分でしょう。ガウンムアの西側はレジスタンスも
討伐軍もまださほど進出してませんので」
「クレイグの要請は早かったな。
やっこさんも将軍職が板についてきたじゃないか」
「ええ、王城で戦闘が始まると同時に呼び出されましたから」
「では早速駆けつけてくれ。
本国からの援軍はあまり当てにならんぞ」
「なぜです?」
「十二人会議は戦争継続派と講和派に別れて議会は紛糾しとる。
魔王様は今のところなにも言ってこない」
「わかりました。自分は自分の出来ることをやるのみです」
「うむ。頼んだぞ」
クレイグは私をたたき起こしグレイン少将への援軍要請に向かわせた。
私も迅速に行動し最速の経路でパールバディア入り出来た。
ガウンムアの西部は都市と呼べるほどの大きな町はない。
が、それなりの規模の町が多数存在している。
すべての町にレジスタンスはいると見なければなるまい。
海を越え最初の港町では王都からの伝令が来ていた。
「農民、漁民の虐殺はするなとの事です」
「そうか。クレイグ准将の命令だな?」
「そうであります」
「わかった。部隊に伝達する」
部隊を50人単位の小隊に分ける。
各隊の受け持つ町を地図を見ながら決めた。
「現地ではさらに部隊を分けてくれ。討伐軍とレジスタンスは
魔道銃を持っている。固まっていると一網打尽にされるぞ」
各隊が散らばっていった。
私も地方議会のある町に向かう。
町は各地で戦闘が行われている最中だった。
常駐している魔人の軍はかなりの劣勢のようだ。
「駐屯地は制圧されてしまったか。
ここはもうだめだな。後回しにしよう」
~~セシリア~~
ガウンムア側で戦闘が始まり王城近辺の安全が確保されてから
私とクロエ、それに聖女隊の20名は魔道トンネルを通り
ガウンムアに渡ってきた。
王城前広場に敷設された陣の中に救護テントを張って貰う。
「聖女様、東部の戦闘で傷を負った者が複数います。
何人か治癒部隊を派遣してくれるでしょうか?」
「いいわ。私が行きましょうか?」
「今のところ命に別状がある者はいません」
「では5人派遣します。空を使える者に
運んで貰ってね」
王城での戦闘は熾烈を極めたようだ。
瀕死の兵がかなりいたので私とクロエは手分けして治癒に当たった。
「クロエ、そっちはどう?」
「だいたい終わったわ。でもまだ市街地の戦闘は継続中ね」
「そうね。私達はまだここで待機しましょう。
殿下が来るまではここを死守しないと」
先週は私もクロエも水着を着て海岸で遊んだ。
クロエの白いワンピースの水着は海岸ではひときわ目立っていたっけ。
殿下と並んで砂浜に座りなにか話していたけど詮索するほど
野暮じゃないわ。
私はあの日『勇者の日記』を読み切った。
そこに書かれていたいた内容は誰にも言えない。
エリックにさえも言えない。
なぜなら1000年前の勇者、すなわち過去へと時空を越えていった
エリック本人の私への指示が書かれてあったからだ。
私は覚悟を決めた。
エリックが自分の仕事を見事にやり遂げるまで
しっかりサポートするのが私の役目。
例え彼が死んでも蘇らせてやる。
出来ればエリックとこのままこの世界で天寿を全うしたい。
けどエリックには使命がある。
1000年前に飛んでそこでも魔王を倒さないとならない。
それだけでなくアレックス殿下がルド王国を興す手助けも
しなければ『今』に繋がらないのだ。
鈴木め。
なぜこんな手の込んだことをする。
私達が元々いた世界の管理者と話をつけたと言っていたが
こんなの理不尽だ。
前世では私とエリック、ユカリもカイトも『とある使命』を
完遂できなかったと言われた。
それに完遂できなったのはどうやら管理者のミスらしい。
私やカイトがなにか失敗したわけではないのだ。
「今度会ったらただじゃおかないんだから」
「なにか言った?」
「あ、クロエのことじゃないわよ」
そろそろ殿下とエリックが来る。
最後の最後まで私はエリックと一緒に行く。
誰が何と言おうとも。