4-2 ガウンムア奪還作戦 その2 シャリファの伝言
~~クレイグ准将~~
「やられたな。王城に詰めていた部隊はどうなった?」
「はい、全滅です」
「わかった。幹部を会議室に集めてくれ。
練兵場の守りは密にしろよ。
進入してくる空使いは一人も帰すな」
会議室に入ると全員が集まっていた。
「諸君。奇襲を受けたわけだがなにか前兆はあったかね?」
皆顔を見合わせ静まりかえっている。
「まあいい。奴らが一枚上手だったと認めよう。
さて反撃開始といこうじゃないか。
幸い本隊は西部地区に遠征訓練に行っている。
留守部隊を殲滅した程度で勝ち誇っている人間共に
本物の地獄を見せてやろうか」
部下が報告をする。
部隊は続々と帰還しているそうだ。
「手強いのは魔道銃などという兵器を持っている連中だ。
まともにやり合っては勝ち目が薄い。
まずは一般市民を虐殺しろ。
女、子供、年寄りから先にあの世に送ってやれ。
補給物資を見かけたら火を放て。
武装してない兵站部隊も殺しまくれ。
市内をかき回している間に王城が手薄になるはずだ。
今回は王族貴族は生かしておく必要はない。
皆殺しにしろ
隊は三つに分けろ。選抜は任せる。
まずは第一陣が30分市内で暴れろ。
少しインターバルを置いて第二陣が行け。
その繰り返しだ。
絶え間なくやれ。
人間共に休む暇を与えるな!」
皆が一斉に動き出す。
「アブレフト政治官、話がある。付いてきてくれ」
アブレフトを連れて執務室に移動する。
「方針を転換せざるをえなくなった。
新しい統治方法のアイデアを出しておいて欲しい」
「こうなったら一つしかありません。
人間はすべて奴隷扱いです。主権はなしですな」
「やはりそれが一番だな。
パールバディアとはどこが違っていたのかわかるかね?」
「ヴァレリ中将が侵攻したときに殺しすぎました。
怨みを買いすぎたとでも言いましょうか。
この時点で融和政策は無理だったのでしょう」
「そうだろうな。しかし人間共が反攻してくれて助かったよ。
十二人会議は税収のことばかりを気にして魔人本来の目的を
忘れている。
我々は人類を殲滅すべきなのだ。
今回の件で本国では融和派が力を失うに違いない」
「そうですね。王都の人間は皆殺しでいいかと思います。
見せしめになりますから。
しかし農民と漁民、それに工房を持つ職人は残しておくべきでしょう」
「わかった。西部も反攻作戦が始まっているが一般市民の虐殺は
避けるように通達する。殺すのは戦闘員のみだ」
第一陣が出発した。
まずは様子見も兼ねている。
初陣の兵士も多い。
第一陣が帰ってきてから作戦に修正を加えるとしよう。
~~アブレフト政治官~~
ボイド隊の報告に違和感を感じつつもそれを探りきれずに
放置してしまった僕の責任だ。
だが今更どうすることも出来ない。
文官である自分が軍を動かせるハズもないのだ。
もう一度ボイド隊長と話がしたかったがここにはいない。
ドルマー軍曹がいたので部屋に来て貰った。
「リチエルド国王の様子は定期的に探っていたんですよね?」
「ええ、たわいものない世間話がほとんどでしたが。
国内の維持管理に関しては評議会の決定が無ければ出来ませんし
国王一人の独断で出来ることって案外少ないんですよ」
「なるほど。しかし今回の反乱は王城から
始まっているように見えたのですが」
「国王が主導していると考えるのが筋ですが
配下の者が首謀者だとしても真っ先に国王の身柄を確保するでしょう。
かれらが担ぎ上げる御輿が無ければまとまりがなくなるでしょうし」
「ふうむ、そんなもんですかね」
この会話にもやはり違和感を感じる。
それがなんだかわからない。
「失礼ですがドルマー軍曹、あなたは国王に対してなにか
個人的感情をお持ちですか?」
「いいえ。なぜそんなことを」
「我々が普段国王に会うときはなにか用事があるときのみです。
魔人のなかで国王と世間話が出来るくらいの親しい間柄は
あなたしかいませんので」
「そうは言われましても。
私も任務で国王に接近しているだけですから」
「はい、それはわかってます。もしかしたらリチエルド国王が
あなたなに何か特別な感情を抱いているとかは?」
「なにが言いたいんですか?
ご覧のような顔にキズのある醜い女です。
悲しいことですがそれはないと断言せざるを得ません」
「すいません、気を悪くなさらずに。
その世間話の最中になにか今回の反乱のヒントになるような
事は言ってませんでしたか?」
ドルマーはあごに手をやり考え込んでいる。
「世間話と言ってもやはり政治の話が中心となりますので。
税収の偏りを調整するために地方同士の連携を取れるように
地方議会のトップ会談の場を設けたりとか・・・」
「それかも知れません。今回の反乱は準備が周到過ぎる。
地下連絡網を構築し武器や情報を我々に知られる事なく
行っていたのでしょうね」
「今となっては私はもう国王とコンタクトは取れないので
確認のしようがありませんが」
「ドルマー軍曹。なにか思い出したら教えていただけませんか?」
「当然です。ボイド隊の皆にももう一度視察状況の洗い直しを
やってもらいまししょう」
僕の仕事はあくまでクレイグ准将への政治的なアドヴァイスをすることだ。
スパイまがいの行為は管轄外なのでこれ以上踏み込むことは出来ない。
ただ気がついた事はクレイグ准将に進言しようと思う。
~~ラーチャとマキシー~~
目の前に忽然と姿を現した軍服姿の魔人は
私に向かって手のひらを広げた。
私の横から飛びだしたマキシーは民家の壁に跳躍し
真横から魔人のクビに噛みついた。
「マキシー!無茶しちゃ駄目!」
遅かった。
魔人は既に事切れている。
「・・・助けてくれたんだね。ありがとマキシー」
うなじを撫でながら言う。
数刻前に突然始まった戦闘に町は騒然となった。
レジスタンスにはあらかじめXデイの事は知らされていたので
両親や兄弟は数日前に郊外の農家の親戚に疎開させている。
私はレジスタンスの連絡係を受け持ち
町中の連絡網に情報を伝えて廻っていた。
レジスタンスに加わっている連中は秘密裏に密林の奥で訓練を重ね
魔道銃を扱えるようになっている。
銃を携えた仲間達はあっという間に魔人の拠点を制圧してしまった。
現在は取りこぼした魔人を追いつめている所だ。
ギルドの冒険者仲間のおっちゃんが声を掛けてきた。
「ラーチャ、無事だったみたいだな。
役所前で炊き出しを始めたみたいだから手伝いに行ってくれ」
「わかったわ。行こうマキシー」
一人と一頭は役所前に向かう。
簡易テントが仮設され炊き出しが行われていた。
救護テントには怪我人が運ばれ医者や治癒魔法使いがせわしなく活動している。
魔道銃のカートリッジを受け取りすぐさま前線に移動する者。
担ぎ込まれる怪我人を治癒する魔法使い。
バケツを持って走り回り手伝いをしている子供達。
私が思っている以上に皆勇敢に見えた。
何をすれば良いのか迷っていると知らないおじさんから声を掛けられた。
「あー、キミ。もしかしてラーチャとマキシーかね?」
「そうです。おじさんは誰?」
「俺はジミーってもんだ。元国軍の中尉さ。
あんたの師匠はシャリファさんだったよな?」
「どうしてそれを?」
「ああ、俺の部隊の隊長がツイーネでシャリファに会ったんだ」
「生きてるの!?」
「生きてる。ツイーネの村でテイマーをやっているそうだ。
ラーチャに伝言がある。
自分のことは心配しなくて良い。ラーチャはさっさと結婚しろ、だとさ」
「師匠・・・・。うんわかった。伝えてくれてありがとう!」
「キミはこれからどうするんだい?」
「レジスタンスの本部に行って指示を仰ぐところよ」
「そうか。じゃあ一緒に行こう」
私達が本部に到着すると同時に空を使える伝令が
大あわてで駆け込んできた。
「大変だ!パールバディア側から魔人の軍が押し寄せてきたぞ!」