3-33 それぞれのXデイ前夜 その2 ツイーネにて
~~アレックス~~
ツイーネではランス国王の即位式が行われた。
式典には私が母上の名代として参加。
まだしばらくはルド王国が復興のバックアップをすることを
国民の前で約束する。
貴族の生き残りを集め政治体制を元に戻す作業も
進められている。
かなり貴族の数が減ったがそれ相応に国民も減っているので
しばらくは問題ない。
国の運営に関してはいつでも我が国がアドヴァイス
すると約束しているので大使館にツイーネ王国との
窓口を作り政治官と行政官を常任させることにした。
「ランス国王、就任おめでとう御座います」
「アレックス王子殿下。何から何まで支援してくださり
ありがとう御座います」
「いえ、ツイーネ王国とルド王国のつきあいの歴史は古い。
将来は逆に我が国が窮地に陥るかもしれません。
その時はよろしく頼みます」
「もちろんです。安全保障条約は相互保証が基本ですからね。
それともう一つお願いがあるのですが」
「何でしょう」
「教会もかなりの数が破壊されてしまいました。
建物の修復は進んでおりますが司教やシスターが足りません。
どうでしょう、ルド王国のイリシス教中央教会から
派遣していただくわけには?」
「もちろんです。中央教会に掛け合ってみましょう」
「ありがとう御座います。人心を安定させるには
やはりイリシス教の力を借りなければなりません」
ランス新国王はルド王国に滞在中に何度か教会のミサに
出席していた。
教会の必要性は充分に解っているのだろう。
「それにしてもルド王国がうらやましい。
お美しい聖女様が四人もいらっしゃるのですから」
「ええ、それは我が国自慢の一つであります。
セシリア殿は特に美しいですからね」
「えっ」
しまった。私情を挟んでしまった。
「確かにセシリア様は目立ってましたね」
「え、ええ」
「しかし何と言っても私が一番目を引いたのは」
なに?セシリア嬢ではないというのか?
「誰なんです?」
「ビアンカ様ですね」
「なるほど。なんというか・・・お目が高い」
筋肉聖女と名高いビアンカ嬢がランス国王をお姫様?だっこ
している様子を想像してみた。
「いやそれほどでも」
ランス国王は赤面していた。
「さすがに聖女様を派遣してくれとまでは言いませんが
時折こちらのミサに来ていただければ国民も喜ぶかも知れません」
「それはいいアイデアですな。
それも含めて中央教会と話し合ってみます」
人の好みはわからないものだ。
話が終わりツイーネ王城を後にする。
「エリック、ツイーネの南の海岸側に展開している討伐軍
の様子も見に行きたいのだがいいか?」
「もちろんですよ。今日は遅いので明日の朝イチで行きましょう」
次の日の朝早くにエリックに連れて行って貰った。
討伐軍は周囲の警戒や魔物の駆除と共に
グレンヴァイスやサフラスの軍との連携訓練を行っている。
ここでは魔王討伐連合軍と呼ばれていた。
司令官は元々はルド王国国軍で大佐をやっていた
アメイデ・クルベ将軍だ。
ウーファ出身の彼は軍における船の運用を進めていた。
海軍を持たないルド王国においては海を渡る作戦を任せられるのは
彼しかいないと考え、将軍に出世させ
連合軍の司令官を務めて貰っている。
40才を少し過ぎた中肉中背の将軍がニコニコと笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそアレックス殿下。討伐軍の総司令官の来訪で
兵の士気も上がっております」
「それはなによりだ、将軍。
ガウンムアの状況はどうだね?」
「ええ、スパイを送り込んで国内の状況を報告させてます。
レジスタンスはうまく隠れて準備を整えてますな」
「魔道銃はどれくらい渡したのだ?」
「すでに3000丁ほど」
「蜂起のタイミングは?」
「Xデイはもう間もなくですな。
ただこちら側にもスパイは入り込んでいると考えてますので
そう言った情報はあまり兵達には知らせていません」
やはり魔人もスパイを送り込んでいるのか。
ルド王国本国にもいるのだろうな。
「わかった、クルベ将軍。
私がここに常駐すればバレてしまう可能性があるな」
「緒戦はお任せください。
開戦直後にこちらに来ていただければ」
「わかった。すべて任せる。
エリック、なにか聞くことはないか?」
「連合軍の魔法部隊、特に空使いは何人います?」
「残念ながら少ないです。
ウーファの戦いで相当数戦死しまいしたからな」
「では一度自分がガウンムアに渡り魔道トンネルを開く場所を
選定に行きましょう。Xデイには老師にも出張ってもらいます」
「おお、それなら一気に兵を運べますな。
作戦はスムーズに進行するでしょう」
「では殿下、一度ルドアニアに帰還してから
勇者のパーティはこちらに移動させておきましょう」
「そうしてくれると助かる。
将軍、勇者一行のために拠点を用意してくれるか?」
「わかりました。貴族が使っていた館があります」
「いや、平民用の一軒家にしてください。
使用人もいりません。一般市民にとけ込んでおけば
スパイに感づかれる確率も減るでしょう」
「流石は勇者殿ですな。では仰せの通りに」
情報ではクレイグがガウンムアの統治をしていると聞いた。
「クレイグは准将に出世したのか。
父の仇はこの手で討ち取りたいものだ」
「殿下、国民全員が同じ思いである事をお忘れ無く
クレイグは楽に死なせるつもりはありませんぞ」
いよいよ始まる。
ガウンムアを取り戻し魔人の国まで奴らを追い詰め
魔王を討伐するのだ。
「では将軍、また来る」
私はエリックと共にルドアニアに帰還した。