3-30 勇者のパーティ合宿所
「勇者でしょ」
「そう言う意味の勇気はないから」
新たに建設した町は軍の訓練施設を中心とした町だ。
町を中央に配置し練兵場は東に、農園は西に配置してある。
中央通りは広く整備されザクレムからウーファ間の宿場町としても
栄えていった。
2ヶ月ほどで町としての体裁が整ってきた。
新しい町は近くにあった小さな宿場町の名前を使い
ニュー・リンクスと名付けられ王家直轄の領地となった。
ルドアニアからの直通の街道も広げられ軌道馬車のレールも敷設
される予定だ。
まあ俺たちは俺が作る空間トンネルで一瞬で行き来出来るのだが。
ここ最近は俺たちはそれぞれの仕事をこなし
夜は殿下が借り主の館に帰ってきている。
「殿下は今夜も遅いのかな?」
執事長のグラハムが答えた。
広い食堂には俺とグラハムの二人きりだ。
「アレックス殿下はマチルダ女王に付き合って
晩餐会に参加しております」
「親子で仕事か。大変だな」
「名目上は仕事ですが」
「ん?なんか裏があるの?」
「・・・・・・・・」
「いやいやいや、そこまで言ったら白状しちゃおうよ」
「やれやれ、仕方がありませんね」
「しゃべる気まんまんじゃねぇか」
「ぶっちゃけるとお見合いです」
「そっか。殿下も跡継ぎ作らなきゃならないもんね」
「そういう事ですが今夜は特定の相手と言うよりも
集団見合いみたいなものらしいですね。
年頃の貴族の師弟を招いての晩餐会です」
「いいひと見つかると良いな」
「ええ、それとこれも極秘情報なのですが」
「そんなに俺に教えちゃっていいの?」
「まあまあ、ちゃんと裏があるので安心してください」
「裏あんのかよ。安心できねぇよ」
「今回は聖女のクロエ様も参加しております」
「ああ、そっか彼女も貴族の娘だもんね」
「クロエ嬢は殿下を狙っております」
「マジで?」
「マジで」
「案外お似合いだと思うんだけど。クロエがんばれ」
「さて、ここからが本題です。エリック様
セシリア様とのご結婚は何時でしょうか」
「ぶふぉあぁ!」
茶ふいた。
「私が感づいてないとでも?」
「・・・・・・っつーかもしかしてバレバレなの?」
「いえ、疑っている方は多いでしょうけど
決定的な証拠がないというか」
「カマかけやがったな」
「いえいえ、基礎的な交渉術でございます」
「グラハムさんクチ軽くない?大丈夫?」
「普段は他人のプライバシーに土足で踏み込むマネはいたしません」
「今は普段じゃないんだ」
「違います。殿下がセシリア様に惚れているのは周知の事実です。
周りから見ればその地位を最大限に利用してさっさと嫁にしてしまえば
と思うのですが殿下は奥手でして」
「うん。それをわかってるから俺もセシリアもこそこそしてるんだ」
「ええ、そうでしょう。ですが私はお二人の仲を邪魔だてするような
事もしたくはありません。そこで」
「そこで?」
「殿下とクロエ嬢をくっつけてしまえ大作戦発動中」
「えっ、稼働中の作戦なの?」
「私が勝手に動いてるだけですが」
どうやら中央教会のミサに殿下が参加するときもアフターの
お茶会には必ずクロエ嬢を側に行かせてたりしてるそうだ。
教会としても聖女が殿下と結ばれれば安泰なので黙認してるらしい。
「ところが殿下は色事には鈍感でして」
「うん、そんな感じだよね」
「これ以上の手出しは鬱陶しがられるだけかと思い
今現在は手詰まり状態なのです」
「うーん。その状況で俺に出来る事ってないんじゃないの?」
「セシリア様との関係をカミングアウトしてはどうでしょ。
さすれば殿下もあきらめるかと」
「危険。すごく危険」
「勇者でしょ」
「そう言う意味の勇気はないから」
この男中々に手強い。
グラハムは若い頃軍にいたそうだ。
退役してからは訓練教官として新兵を震え上がらせた鬼教官。
だがなぜか王家預かりの執事に再就職した変わり種。
「グラハムさんの殿下に対する気持ちは痛いほど理解した。
この件は保留にしてくれる?
クロエにも話を聞いてみたいし」
「了解しました。ご協力感謝いたします」
半ば脅迫に近い形で『ご協力』するはめになってしまった。
ダレスとアリアとセシリアが同時に帰って来た。
ちょっと遅れてギルバートも帰って来た。
アリアが叫んでる。
「ただいまー!おなかすきましたー!」
皆で夕食を取り雑談タイム。
「なあセシリア、クロエは最近どんな感じ?」
「なんでそんな事聞くのよ」
「い、いやほら。ミサの時も殿下にべったりという噂を聞いて」
「なんで知ってるの。ミサにはろくに来ないくせに」
「いやー、なんか苦手でね。まあ俺の話は置いといて。
殿下の反応はどうなのかなあ、と思って」
「まあアレですわ。水蒸気を槍でつっつく、みたいな。
クロエも手詰まりっぽいわね」
「やっぱり」
「ここは年上の意見としてギルバート先生、なにか一言」
「俺に振るなよ。
俺も跡継ぎだし嫁探さなきゃならない。
殿下のプレッシャーは理解できるからね」
「えー、だってナチュラルに気がついてないっぽいよ?」
「アホ勇者、ちゃんと観察しろよ。
まず殿下は本来なら国王になってなきゃいかんのよ。
マチルダ陛下はあくまで暫定政権。
その間に嫁探しもしなきゃならないのは殿下本人が一番よく
解ってるはずだ。
それを表に出さない聡明さがあるんだよ」
「さすが年上。そっかー。
だったら周りからせっつかれたら鬱陶しいよね」
「そういう事」
「じゃあ俺がクロエを殿下の寝室にデリバリーして
既成事実を作っちゃおうか?」
セシリアがジト目で俺を睨んでる。
「あんた昔からゲスいアイデアがすっと思い浮かぶわよね」
「昔っていつの話だよ」
「えっ・・・・・と。まあなんとなくよ、なんとなく」
「なんだそりゃ」
アリアが挙手して発言。
「ありますよー、エルフに伝わる恋のおまじない」
「おまじない?そんなのあるの?」
「ぶっちゃけて言うと精神干渉魔法ですが」
「却下だ、却下。
おまじないじゃなくて呪いの類じゃねぇか。
無理矢理はまずいだろ」
グラハムがお茶のおかわりを持って来た。
「皆様、殿下のためにアイデアを出していただきありがとう御座います」
「グラハムさんも大変だね。そこまで気を遣わなきゃならないなんて」
「いえ、私の場合は面白がってるだけですが」
「そんなこと言って実は女王陛下からの密命だったりして」
「ギク」
「ぎゃははは!絶対嘘!」
~~マチルダ~~
「はっくしょん!あらやだ風邪かしら?」
マリアンがハンカチを差し出した。
「今夜は早めに寝た方が良いんじゃないですか?」
「そうするわ」
~~ダレス~~
皆面白いなあ。
開拓村ではこんなに賑やかな夕食は収穫祭の時くらいだもん。
ルドアニアに来て良かった。毎日が楽しい。
でも今の話で思い出したことがあるんだ。
僕も嫁探ししなきゃならない。
心配なのはスフィーアにまで付いてきてくれる
娘が見つかるかどうかだな。
スフィーア出身の同い年の娘と言えばカミーラさんが居るけど
なんか近寄りがたい雰囲気だし。
でもまあルドアニアは大都会。
綺麗な女の子がいっぱい!
いつかきっと見つかるさ。