3-27 ラスケイル隊の帰還
「ギルバート少佐、お世話になりました」
「ラスケイル大尉、ガウンムアに帰るのか。
おっつけ私達もガウンムア経由で魔人の国に侵攻する予定だ。
その時はアチラで酒でも飲もう」
「いいですね。海沿いに海鮮居酒屋があるんです。
招待しますよ」
「楽しみにしている」
俺はギルバート少佐にお礼を言いジミー、ルージィと共に
ルド王国の王都ルドアニアを発った。
まずはツイーネに入り復興庁舎を訪れる。
ガウンムアから連れてこられた我が同胞の生き残りがいるかどうか
尋ねるのが目的だ。
戸籍課の役人が申し訳なさそうに言った。
「残念ながらそういった話は聞きませんね。
居たとしてもガウンムアから来たとは言えますまい」
「なぜだ?彼等は強制的に徴用されたんだぞ」
ツイーネ攻防戦、そしてウーファへの侵攻。
ルド王国側はウーファの守備隊と駐留していた討伐軍を
全滅させられている。
強制的に徴用されたことはわかっているが敵方に荷担した
連中への風当たりは強いのだそうだ。
「無理を言ってすまなかった」
礼を言い復興庁舎を後にした。
ジミーがつぶやく。
「全く何も情報がないのもどうなんだかな」
「まあそう言うな。心情的には理解できなくもない」
ルージィが提案してきた。
「せめて一週間だけでも俺たちで捜索してみないか?
三人別行動で一週間後にここで落ち合うというのは?」
俺もジミーも同意した。
「では一週間後にここ、王城前広場に集合しよう」
ツイーネの生き残りは全国民の4割程度いたそうだ。
そのほとんどが中央から内陸にかけての農民だった。
魔人の侵攻が始まった直後にツイーネ国軍の空を使える兵士が
知らせて廻ったおかげでサフラスやグレンヴァイス側に
逃げることができたそうだ。
海沿いは絶望的だったので除外し
国を南北に三分割して担当地域を決めた。
俺は北部の担当だ。
最初の村は空振りだった。
が、村長が周辺地図を持っていたので写させて貰った。
山に近づくに従い村は少なくなっていく。
山岳地帯手前の最後の村で出会った農夫から情報が入った。
「ここは山際なので時折山から魔物が下りてくるんだ。
前までは腕に覚えのある村人で対処してたんだが最近はテイム出来る
人間が山に魔物を帰しに行ってくれるので助かってるよ」
「そのテイマーにはどこで会える?」
「森の入り口にある一軒家に住んでいるよ。
そうそう、訪ねていくならブロンズウルフが見張っているから
気をつけなよ。男の名前はシャリファだ」
年配のテイマーはブロンズウルフを一頭テイムしているそうだ。
さっそく訪ねてみる。
「シャリファさん、いらっしゃいますか?」
小屋の木戸を開け一人の男が出てきた。
傍らにいるブロンズウルフが低いうなり声をあげ頭を低くしている。
「どちらさんかな?」
俺は敬礼をして答えた。
「自分は元ガウンムア国軍大尉のラスケイルであります。
ガウンムアの生き残りを捜索中であります」
「『三日月』もう警戒しなくていいよ。
ラスケイルさん、お入りください」
三日月と名付けられているブロンズウルフはうなるのをやめ
シャリファと一緒に小屋に入っていった。
茶を出して貰い話を始めた。
俺はレジスタンスに所属しルド王国で訓練を受け
本国に帰る途中であると告げた。
「ガウンムアはまだ魔人の勢力下にあると言うことか」
「そうです。しかしリチエルド国王及び新評議会の面々は
黙って支配を受けてるワケではありません。
反攻の準備は進んでおります。
シャリファさんも協力していただけませんか?」
「どうやって?」
「レジスタンスが作戦を開始すると同時に魔王討伐軍がガウンムアに
侵攻してきます。その時一緒に国に帰れるように手はずを整えます」
「有り難い話だがそんなに上手くいくかな?
私は・・・・私と私の魔物達は多くを殺しすぎた。
ルド王国は許すまいよ」
シャリファはブロンズウルフ5頭と共にツイーネに渡ってきた事
懐いていたブロンズウルフ4頭を亡くした事。
ツイーネで調達したコボルトの一団をけしかけ
ルド王国の軍人を殺した事を語った。
「不幸な巡り合わせであったとしか言えません。
確かに我々はルド王国の支援がなければ武装蜂起は出来ません。
しかしだからといって生き残っている同胞を見捨てる理由にはならない。
一緒にガウンムアへ帰りましょう」
シャリファは天井を仰ぎ少しの間目を瞑った。
「ラスケイル大尉殿。やっぱりワシはもう戦争に荷担したくはない。
ここの村はたいした被害もなく済んでいるので
他の村より私に対する風当たりは強くない。
ここで余生を過ごすことにするよ」
「・・・・・あなたの意志を尊重します。
我々はこれからガウンムアに帰還します。
国に残した家族になにか伝言があればお受けいたします」
シャリファに家族は居なかった。
だが弟子であるラーチャという少女が西部の町に住んでいるそうだ。
「ゴールデンウルフのマキシーを連れて歩いているからすぐにわかる。
『ワシの事は心配ない、こちらで魔物のテイマーをやっている。
それからさっさと結婚しなさい』と伝えてくれますか」
「承りました。しかし平和になったら国に帰ることも検討してください」
「ありがとう大尉殿」
その夜はシャリファの小屋に泊めて貰い翌朝他の地域に捜索に出た。
荷運びや飯炊きといった立場で連れてこられた者達数名とも出会った。
ほとんどは肩身の狭い思いをしており出来ればガウンムアに帰りたいと
言っていた。
彼等は魔法の使えない一般市民だ。
空を使っての迅速な移動はできない。
ガウンムアから魔人を追い出したら迎えに来る約束をした。
一週間がたち俺たちは王城前広場に集合した。
ジミーもルージィも数人の生き残りとコンタクトが取れたようだった。
「非戦闘員がほとんどか。今はまだ連れて帰れない。
彼等のためにもガウンムアを取り戻さねばな」
俺たちは海沿いに南を目指した。
そこからは空中で空を繋ぎガウンムアを目指す。
東の半島の断崖には人は住んでいない。
そこに降り立ち徒歩で最寄りの漁港を目指しレジスタンスの仲間と
連絡を取った。
レジスタンスの支部長が教えてくれた。
「最近視察名目で魔人がここいらを調べて廻っているんだ。
警戒してくれよ」
「ああ、わかった。ルド王国からの『アレ』は?」
「順調に届いている。後は王都や各都市のレジスタンスに
見つからずに渡すだけだ」
まずはこの支部に届いている魔道銃と魔道障壁の使い方をレクチャーした。
皆目を丸くしていた。
「すごい。これなら魔法を使えない者でも頭数に入れられるな」
「そうだ。それと同時に部隊での運用方法も学んできた。
俺達は各支部及び本部の連中に使い方を指導して廻る。
「そうそう、燃料は魔物の魔石を使用する。
空になったカートリッジは回収してくれ。
魔石の加工と充填方法も教える」
俺、ジミー、ルージィはしばらく別行動になる。
極秘裏に全国を回り魔道銃を行き渡らせ使い方をレクチャーするためだ。
「ジミー、ルージィ。これからが正念場だ。
お互い見つからずに任務を遂行しよう」
ジミーが俺の胸をどいついてきた。
「へっ、今生の別れみたいな顔すんなよ、縁起悪いだろが」
「そんな顔してたか?まあギルバート少佐との約束もある。
そう簡単に死んでたまるか」
俺たちは死にに帰ってきたワケじゃない。
国を取り戻すんだ。
Xデイは刻一刻と近づいている。
ルージィがアクビをしていた。
「今から緊張していたんじゃ気力も体力も保たないぜ。
今夜は久しぶりに海の幸を堪能しようじゃないか」
「はは、そうだな」
俺たちは連れだって海鮮居酒屋に向かっていった。