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3-26 ツイーネを継ぐ者


「アレックス殿下、ツイーネ王族の生き残りが発見されました」

「なに、本当か?事情を話してくれ」


 軍務部の諜報機関の長ストラウト局長が報告を始めた。

「ツイーネとサフラスの国境沿いの山中にある小さな村に

保護されていたそうです。

現在ルドアニアに向けて移動中であります」


「わかった。ルド王国預かりで復興が進んでいるが

何時までもこのままというワケにはいかんからな。

到着したらまた知らせて欲しい。

名前は何というのだ?」

「ランス・トスカナータ、15才。

国王の甥に当たる人物です」


~~~~


 俺の名はラッド。

もちろん偽名だ。

俺は軍務部お抱えのスパイだからな。

 

 ツイーネでの情報戦では仲間が相当数やられた。

当初黒髪であれば魔人軍に紛れ込んでもばれないだろうと

タカをくくっていたのだが、魔人共は人間との区別がつくらしい。

奴らが体内に魔石を持っているかどうかを

判別できる事がわかったのはツイーネが侵攻されてからだ。


 偽装のため常に大きめの魔物の魔石を持ち歩くようになってからは

ばれなくなった。

もっと早くにわかっていれば仲間達も命を落とさず済んだであろうに。

今更言ってもしょうがないが。


 ツイーネが殲滅された時も俺は魔人の兵に紛れて

城になだれ込んだ。

だが俺が行った時は既に城に居る者は皆殺しになっていたのだ。


 国王以下王妃や王子達の遺体を確認したが

見るに堪えない無惨な肉塊では判別は不能であると言っていい。

王族貴族は全滅したと思われる、

との曖昧な言い方で報告するしかなかった。


 戦争が一段落し、俺は新たな任務で

有望なミスリル鉱山の発見の任務を仰せつかった。

担当地域はツイーネからサフラスにかけての山岳地帯。


 ノルガルド教授の講義を受けてミスリルを含んだ岩石の

見分け方を学び人が住んでない山中を一人で野宿しながら

探索していた。


 一度中腹まで降りていき温泉が湧き出てる

集落に行った時のことだ。

温泉に浸かっていると地元住民のおっさん二人の

会話が耳に入ってきた。


「そういや『キコリの村』の連中がこの間モノを売りに来たんだ」

「いつもの定期便か」

「そうなんだが今回は集団の中に成人したばかりとおぼしき

青年がいてね。どうも山育ちのキコリとは雰囲気が違ってたんだよ」

「ほう、どんなふうに?」

「綺麗な金髪碧眼でなんとなく高貴な雰囲気があったが

格好はキコリの格好だった。

ま、俺の勘違いかもしれんがね」


 俺は二人に話しかけてみた。

「面白そうな話だね」

「あんたは?見かけない顔だな」

「山師だよ。ミスリル鉱脈を探してる」

「そりゃご苦労さん」


「どうも。で、ツイーネの王族は皆殺されちまっただろ?

もしその青年が逃げおおせた王族だったら大発見だな」

「可能性が無いワケじゃないが。

何度も言うが俺の勘違いかもしれん眉唾物の話だ」

「確かめようがないからな。でも面白い話だったよ。

ありがとな」


 次の日キコリの村を目指して山に入った。

正直言うとミスリル鉱脈探しより面白いと思ったからだ。


 目当ての村はすぐに見つかった。

村人を見つけ金髪碧眼の青年の事を尋ねた。

その村人はジロジロと俺の顔を眺めていた。

「あんたはどこから来たんだい?」

「ルド王国だよ。ミスリル探しに来た山師だ」

「ふうん。村長に会うかい?」

「頼む」


 村長に会って話を聞いた。

王族の生き残りを預かっている。

しかるべき人物が現れたら引き渡して欲しいと頼まれたとのことだ。


「王子をここに連れてきたのは誰なんだい?」

「魔人の軍人だったな」

「魔人が?なぜだろう」

「ワシが聞きたいわい。

とにかく王家の血を引く人間だからここで生き延びさせて欲しいと

言われたので預かっただけだ。詳しい事情は知らんな」


「俺はルド王国の政府の委託を受けてミスリルを探しているんだ。

このことはルド王国に伝えて王子を引き取って貰うのはどうだろうか?」

「そうしてくれるなら助かる。我々ではかくまうのがやっとで

それ以上の事はできんからな。

待ってろランス様を呼んでくる」


 村長がランス王子を連れてきた。

「大変失礼ですが本当にツイーネの王家の血筋の方なのでしょうか?」

ランスは黙って一本の短剣を俺に渡した。


「確かに。これは王家の紋章が入っている」

その辺の量産品とは違い細かく綺麗な装飾が施されており

柄の部分には王家の紋章が掘られ中央には赤い宝石が埋め込まれていた。

おいそれ偽造など出来ないシロモノである。


 匿ってくれていた村には相応の謝礼を払わねばならないと思い

そのことを村長に話すと既に魔人から金貨を受け取っていると答えた。

魔人は何を考えてる?

人間を滅ぼすのが目的ではないのか?

カネまで渡して匿わせるのは気まぐれで取った行動ではないだろう。


 ランスが教えてくれた。

「私を城から連れ出した魔人は、上からの命令だと言ってましたね。

ツイーネを殲滅した部隊のさらに上位の位置に居る者の考えなのでしょう。

理由は解りませんが」


「なるほど。真相究明には時間がかかりそうですね。

現在ツイーネはルド王国預かりで復興が進んでます。

一度ルドアニアにお越しください。

今後の方針等は女王陛下と相談して決めるべきかと思います」


「そうですね。ルド王国にはツイーネの復興のために

相当資金資材を投入してくれているのでしょう。

その辺も含めて話し合わなければ」


 まだ成人したてであろうにしっかりした理知的な青年だ。

約1年以上匿われている間に国の在り方について思索にふけっていたそうだ。

「ま、農作業の手伝い以外は他にすることもなかったですからね」


 まずは俺が国に知らせに行き改めて迎えに来る事にした。


 ストラウト局長はこのことをまず殿下に伝える。

俺は再びランスを迎えにキコリの村に行った。


 サザーネまで俺がくうを繋ぎ一緒に行った。

俺の能力だと一人を運んで移動できるのは数百メートルである。

細切れに街道をたどりサザーネに到着。

ランス王子は用意してあった馬車に乗り王都を目指した。


「ふう、一段落だな。さてミスリル探しに戻るか。

その前にもう一回温泉行こう、っと」

新しいタオルを数枚購入して俺は再びツイーネに戻った。


~~マチルダ視点~~


「女王陛下、王子殿下。ツイーネの奪還及び復興のお礼を申し上げます」

「ランス殿下、頭をお上げください」


 私は年の頃はアレックスとそう変わらないランスをじっと見る。

金髪碧眼の美しい青年だ。


「ツイーネの復興は順調に進んでおります。

侵攻当時、城につめていた王族貴族は残念な事になりましたが

貴族の血を引く者は多数見つかっております。

早い時期にランス殿下が王位を継ぐことを

宣言したほうがよろしいかと思いますわ」


「何から何まで世話してくださり恐縮であります。

王位継承の宣言はお言葉通り早めにしたいですね。

復興の陣頭指揮も何時までもルド王国にお任せするのは

心苦しいですし」


「失礼ですが王になるべくそれなりの教育は受けておられますか?」

「私は国王の甥に当たります。

王位継承権は一番低かった者ですからあまり厳しい教育は受けておりません。

しかし最低限の事は学んでおります」

「解りました。今後の方針に関しては王位を継いでから

再び会談の場を設けて話し合いましょう」


 ランスとの話が終わりアレックスと二人きりになった。

「アレックス。これでツイーネの復興に予算と人員をこれ以上割かなくても

いいかもしれないわね」

「ええ、母上。しばらくは面倒見なければなりませんが

最初の収穫があれば楽になるでしょうね。

それと同時にガウンムアへの橋頭堡を築かねばなりません」


「まずはガウンムアを落とすのね?」

「はい。ツイーネの海路を確保できれば

迅速に兵や物資の移動が出来るようになるでしょう」


「その辺も含めて話し合わねばならない事は多々あるけど

ウチも際限なく援助出来るわけではないの」

「・・・・・財政ですか?」

「あまり大きな声では言えないけど我が国も

ゆとりはないと言っていいわね」


「解りました。ガウンムアのレジスタンスとも連絡網は構築されてます

早いうちにガウンムアを落としましょう」

「できるだけ急いで欲しいけど慌ててもいけないわ。

よろしくお願いね」


 アレックスが退出していった。

しばらくしてマリアンがお茶を下げに部屋に入ってきた。

「先輩、国庫はそんなにやばいんですか?」

「兵や冒険者を集めたおかげで農産物の収穫が減っているの。

それに新兵器の生産でかなりの金額が出て行ってるわ」


「じゃあ貨幣を増産しましょう」

「簡単に言うわね。まあインフレを招かない程度に

増やしてはいるけど」

「極端なやり方ですが我が国がインフレになっても

他国の貨幣価値がそのままなら

対外的に出て行くオカネは相対的には減りますね」


「危険だわ。すぐに他国がインフレになればイタチごっこよ」

「ええ、今のは極端な話ですが

無難なのは仕事を増やして賃金という形で

増刷したオカネを市場に流せば不自然ではないですね」

「そうね。どれくらいのペースで増刷出来るかもう一度洗い直してみるわね」


「農作物の増産はなにか手を打ってるんですか?」

「今のところなにも」

「ボイパ船長に相談してみますか?

肥料とか収穫方法とかこの世界に不自然でない方法を考えるとか」

「そうね、農耕文化がどの程度なのか母船の調査班が調べてるでしょう。

相談してみるわ。ありがとねマリアン。

ところでエドとはうまくいってるの?」


 マリアンは満面の笑みでハイ!と返事をした。

年上で優しくて細マッチョがいいとか言ってたので

エドなんかどうかしら?と、なにも考えずに名前を出したら

本人が積極的に動いてものにしてしまったらしい。


「ある意味エドも大変ね」

「なにか言いましたか?」

「いいえ、お幸せに」

  

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