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3-24 魔人の国の事情 その2 ボイド隊の報告


~~ボイド上級尉官~~


 ガウンムアの西部はヴァレリ中将が侵攻をした時に

多くの村が壊滅させられた。

残された耕作地を有効に活用するためには農民が必要。

そんなわけでパールバディアから1万人ほどを移住させ

農業、漁業に従事させている。


 まずは西部地方議会の議長を訪ねて現状を聞いてみた。

「お久しぶりです、ボイドさん。今回はどのような件で?」

「単なる視察だよ。どうだい移住組は。うまくやってるかい?」

「ええ、皆市民権を得られて差別されることも無くなったので

喜んで働いてますよ」

「それはなにより。税収は?」

「はい、そろそろ収穫の時期ですが以前よりも増えそうです」

「ほう、そんなに頑張っているのかね」

「まあ今年は天気に恵まれたと言うのが大きいですが

移住組が頑張っているおかげでネイティブもつられて働いてますわ」


 西部の役所を後にして町をぶらついた。

商店街は人出が多い。

物資も豊富だ。

どうやらパールバディアから商品が入ってきてるらしい。

雑貨屋の主人に話を聞いてみた。


「へい、おかげさまでパールバディアの優秀な製品を

棚に並べられております」

「これってガウンムアの政府は知ってるのかな」

「はい?リチエルド国王の許可は出ておりますが」


「ならクレイグ閣下も聞いているはずだな。

ま、後で確認してみるが」

「ええ、こちらとしても政府にたてつくようなことは

する気はないですから。

確認の程をよろしくお願いします」


「わかった。ところで店主、これはなんだ?」

私は竹で作られた手の形をした棒を手に取った。


「これは『孫の手』と言う商品です。背中を掻くのに使います。

試しに使って見てください」

「どれどれ。お、これは気持ちがいい。なかなかに便利だな」

「ええ、売れ筋商品ですよ」

「そうなのか。店主、『孫の手』で大儲けしてるんじゃないのか?」

「いやー、旦那。ボチボチでんな」

 

 店主は満面の笑みである。

相当売れてるのであろう。


 雑貨屋を出て再び歩いて町中を見て廻る。

冒険者ギルドを見つけたので入り、依頼掲示板を眺めて見た。

「薬草採取、迷い猫の捜索、密林の魔物退治及びテイムか」


 受付嬢にギルド長と話がしたいと伝える。

数分後ギルド長がロビーに姿を現した。


「こんにちは。魔人軍の方ですか。ご用件は?」

年配の優しそうな印象の老人がギルド長だった。

「いやなに。西部の視察に来たついでに寄ってみた。

密林の魔物退治の依頼があったが、

わさわざ密林に入り込んで討伐するのかね?」


「ええ、そろそろ収穫の時期ですから。

畑を荒らされてから対処していたのでは遅いんですよ」

「なるほど。やられる前にやるワケか。

理に適ってるな」


 しばらく世間話をしてからギルドを出ようとすると

一匹のゴールデンウルフが建物に入り込んできた。

「む!こんな所に魔物が出るのか!」

石弾を撃とうとすると一人の少女に止められた。

「おじさん落ち着いて。これは私のパートナー、マキシーだよ。

ほらマキシー、お座り」


 少女の傍らに座るゴールデンウルフ。

これだけ間近に見るのは初めてだ。

「君がテイムしてるのかい?凄いな、初めて見たよ」

「テイムはしてないんだけどね」

少女から事情を聞いた。

「そうか。マキシーも苦労してるんだな。触っても?」

「いいよ。まず手の甲をなめてその臭いを嗅がせて。

おじさんに悪意が無いことを示してからね」


 言われたとおりに手の甲をウルフの鼻先に近づける。

ひとしきり臭いを嗅いだあと尻尾をぱたぱたと二回振った。

「いいみたい。頭じゃなくてうなじ辺りを優しく撫でてね」

「お、意外と柔らかい毛並みだね」

「へっへー、さっき洗ってきたばっかりなんだ」

少女は自分が褒められたように嬉しそうだった。


「お嬢さんは依頼の帰りかい?」

「うん。魔物を追い払って来たわ」

「そうかい、ご苦労さん」


 少女とマキシーにお礼を言いギルドを後にした。

今のところこの町に怪しい所は見あたらない。


~~ドルマー軍曹~~


 井戸端会議。

別に井戸の周りで行われるとは限らない。

街角のどこでもオバチャン達は好き勝手にゲラゲラ笑いながら

立ち話をしている。


 よく見かける光景なので特に普段は気にしてないのだが、

今回はひそひそと声をひそめるように話をしてるオバチャン数名を

見かけたので話しかけてみた。


「こんにちは。なにかありましたか?」

「あら軍人さん、こんにちわ。

ちょっと聞いてよウチの旦那が最近頻繁に飲み歩いてるから怪しんでさ」

「え、ええ」

しまった。本当に世間話だがどうやらあまり聞きたくない類の話っぽい。


「で、後をつけるにも私ったらこんな体型でしょ?

ちょっと目立つじゃない?」

見事なビヤ樽である。


「で、コッチのお友達に頼んでスパイして貰ったのよ。

そ・し・た・ら!」

「そしたら?」


「どうやら旦那も誰かの後をつけてるみたいだったのね」

「誰の後をつけてたんですか?」

「仲卸業のトーマスさんよ。

ひょろっとして背が高いイケメン中年なんだけどね」


「そのトーマスさんが浮気でも?」

「さすが軍人さん!そのとおりだったのよ!

と・こ・ろ・が!」

なぜスタッカートでしゃべるんだろう。


「トーマスの相手が雑貨屋のセガレのジェームスだったからさあ大変!」

「え、えっと・・・・薔薇薔薇しい話なんですかね?」

「そりゃもう咲き乱れちゃってるわよ薔薇が。アーッ!ってな具合に!」

「よくわかりません」


「で、旦那を問い詰めたら白状してさ。

誰にも言うなよって釘刺されたけど」

「でも今私に言ってますよね?」

「あら、軍人さんはこの話を上司に報告する?」

「するわけないじゃないですか」

「じゃいいじゃない」


 いい、のか?

「まあとにかく内緒の話ってことですよね。

それでは仕事に戻りますので」

おばちゃん達は軽く手を振ったあとまた世間話に没頭し始めた。

もしかしたらこの国の最強の生物はオバチャン達かもしれない。


~~政治官アブレフト~~ 


 ボイド隊の報告を聞いた。

嫁探しの青年に甘エビのむき身に人なつっこいゴールデンウルフに

男色の話か。

「ボイドさん、特に怪しい点はないってことですかね」

「ええ、今のところそうですね。

税が重くなった分収穫量を増やして自分たちの実入りを残す方向で

働いてるそうなので反乱を起こす暇はないかもしれません」


「ありがとうございます。

今後もたまにでいいんで市井の声を拾ってください」


 ボイド隊長は姿勢を正し返事をした。

「わかりました、アブレフト殿。

ドルマー軍曹、トーマスとジェームスの続編頼んだぞ」

「いやです」

「冗談だ」


 しばらくの沈黙。


「では皆さんお疲れ様でした」

ボイド隊が退出していった。


「さて、僕は各省庁の仕事内容を再び洗い直してみるか」

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