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3-23 魔人の国の事情 その1 政治官アブレフト



~~ガウンムアの政治官アブレフト~~


 僕がガウンムアに政治官として赴任してきてから

数ヶ月がたった。

色々と思うところがある。


 単に税収を上げるだけなら奴隷国家として属国化

してしまうのも一つの手だ。

その際王族貴族は邪魔。皆殺しにすれば良い。


 だがガウンムアの場合には王族も貴族も居るどころか

内政はほぼ彼等が仕切っており魔人はただ彼等からの

報告を聞くだけである。

もっとも軍や警察組織といった武力を持つ機関は我々

魔人の軍が仕切っている。

反乱の目はほぼ無いと言っていいだろう。


 だがおかしい。

具体的におかしなところがなにもないのがおかしい。

国王リチエルドも若い評議会の面々も常に強気の

姿勢を崩さない。

その割にはおとなしく魔人の指定した税や農作物を差し出している。


 本国の十二人会議もガウンムアの統治は上手くいっている

と評価している。

自分がおかしいと感じる根拠が何もないので

誰にもこの違和感を言えずにいるのだ。


「クレイグ閣下。今のところ国王も評議会も表だって

邪魔なマネはしてませんね」

「アブレフト君の言うとおりだな。

だが今のところ、という注釈が入る」

「というのは?」

「今の安定は次なる混乱の布石だ」


 クレイグ閣下はなにか感づいているのだろうか?

「これは軍人である私の自分に対する格言みたいなものだよ」

「なるほど。勉強になります」


 クレイグ閣下も国王以下を

丸ごと信用している訳ではないのだろう。

だが閣下は目下魔人軍の駐留部隊の訓練に重きを置いている。

自分の根拠無き違和感など話題にはできない。

ボイド上級尉官殿に相談してみるか。


「と言うわけで、上手くいきすぎているのが逆に怪しいというか

そんな印象を持っているんです。ボイドさん」

「心配しすぎだと思いますが。

なにかあったら武力で押さえ込めますからね」

「そうですよね。心配しすぎかな?」

「しかし用心に越したことはありません。

ウチの部隊で国内の様子は独自に調査しておきましょう」

「助かります。なにかあったら知らせてください」


~~ボイド隊の面々~~

 

「アブレフト政治官殿からの要請で我々が独自に国内の調査を

することになった。

その前に各自何か気がついた点があったら挙手して発言してくれ」


 バートル下級尉官が発言した。

「以前南部の視察に行った際には特に変わった様子はありませんでした。

南部は戦禍に飲まれてない地域も多いので割とのんびりしてます。

我々魔人側も警戒が手薄になっているように感じました」


 アガール曹長も発言した。

「東部の半島も一度視察に行きましたが漁村は放置されてると言っても

いいですね。我々は海の魚を食べる習慣が無いので

現物ではなく現金での納税になってるので漁民の生活には無関心です」


「もし仮に、だ。反乱の兆しがあるとするならば手薄な地域は

要警戒と言っていいだろうか?」

発言した二人がうなずいた。

「うむ。ではバートルとアガールは南部を。

トルグとサラは東部を調べてくれ。

私は西部を見てくる。

ドルマーは王都と引き続き国王の監視を頼む」


~~バートルとアガール~~


 アガールと二人だけの任務は気が楽だ。

階級は違うが軍に入る以前からの友人なので二人きりの時は

お互い呼びつけでいい。


「なあ、バートル。以前行った最南端の開拓村はどうなったかな」

「ああ、村長が処刑されそうになってたっけ。

行ってみるか」


 二人で名もない開拓村に再び行ってみる。

「村長、まだ生きていたか」

「お二人には命を救われました。感謝しております。

で、今回はどういった用件で?」


「単なる視察だよ。麦の収穫はどうだい?」

「可もなく不可もなく、ですな。相変わらず密林から出てくる魔物には

手を焼いてます」


「頻繁に出てくるのか?」

「頻度はそうでもないのですがギルドが派遣してくれる冒険者が

予定通りこない事もあるので」


「そうか。収穫物を収めに行ってる町にギルドがあるんだよな?

帰りに寄って一言言っておくよ。

税収が減ったらドヤされるのは俺たちだからな。

二日ほど滞在するから魔物が出たら教えてくれ。

俺たちがやるよ」

「なにからなにまでありがとう御座います。

魔人にもいい人がいるんですねぇ」


 別にいい人ではない。

むしろ悪い人だ。

武力で脅して収穫物を搾取してるわけだからな。


 宿泊用に用意された小屋に入る。

「バートル、ここは戦争の臭いがない牧歌的な村だな」

「ああ、だからこそ調査を命じられたわけだ。

明日は村を見回って村人の話でも聞いてみるか」


 翌朝密林の近くでグリーンキャタピラ数体を討伐してから

農作業をしていた村人に話を聞く。


「ようおっちゃん。精が出るね」

一瞬顔をしかめたように見えたがすぐに笑顔で答えてくれた。

「草むしりがたいへんですわ。

ま、収穫があればこの苦労も報われますからね」


「そうかい。ところで以前は息子さんと一緒に仕事してたよな?

息子さんはどうしたい?」

「ああ・・・・セガレは嫁探しに行ってます」

「嫁?」


「はい。17才になるのにこの辺には年頃の女の子がいません。

まあ見聞を広めるためにも一人で旅して探してこいと言うわけでして」

「ふうん、そうか。いい嫁さんが見つかるといいな」


 アガールと二人で歩き出した。

「なあアガール。嫁探しだとよ」

「なにが言いたいかは解るぞ。

俺たちはとっくに適齢期だが独身だからな。

人ごとじゃないんだよな」


「まあそれもあるが。

どこに探しに行ったかも解らないってそんなことあるのか?」

「確かに不自然だな。普通は知り合いの伝手を頼って見合いとか

するはずだよな」


「まあこの村は他はおおむね怪しいところはないし、

セガレの足跡でも追ってみるか。名前なんていったっけ?」

「村長に聞いてから他の村に行こうか」

「そうだな」


~~サラとトルグ~~


「兄さん、ホントに食べるの?」

「だってみんな食べてるぞ。大丈夫だろ」


 俺は妹のサラと一緒にガウンムア東部の主に

漁村を中心に調べて廻っている。

立ち寄った港で漁師が生きた小エビを

差し出してきて食えと言ってきた。


 どうして良いか解らず固まっていると

その漁師は生きたエビの胴体を

引きちぎり皮をむいて身を口に放り込み、

満面の笑みで親指を突き立てている。


 サラが眉をひそめて見ているが好奇心が勝ってしまった。

漁師のマネをしてエビの身を口に入れる。


「お、意外とうまい。もう一匹ちょうだい」

「兄ちゃん気にいったみたいだね。ほれもう一匹」

「ありがとよ。海のモノも案外イケルんだね」


 エビ以外に何が取れるのかどんな風にして食べているのか

等々雑談がてら教えて貰った。

干物を都市部に売って現金収入にしておりそこから税金を

払っている事も聞いた。

なにも怪しいところはない。


 その場を去り歩きながらサラと話す。

「サラも食えば良かったのに」

「火を通さない生でしょ。そんなもの食べるのは野蛮人だわ」

「俺は旨ければなんでもいいがな」


 次に行った港は大きかった。

外洋に出られる大きな船が沖に数隻停泊している。

港湾管理者に話を聞く。

水揚げの施設の順番待ちで数隻が待機してるのだそうだ。

今回は皆大漁だったらしく時間がかかっているとのこと。


「確かツイーネ戦の時に大きな船は魔人軍が接収したはずだが」

「それはツイーネとの定期便で主に客船ですね。

漁船も接収されるハズだったんですが魔人の軍人さん達は

生臭い臭いが染みついてる船を嫌がりまして」


 サラが納得している。

「ああ、そういう事。それはわかるわ」

俺は沖合のひときわ大きな船を指さした。

「アレは随分大きくて目立つけど」

「はい?ああ、あれはサンチエゴの船ですね。

今回も大漁なので順番待ちです」


「ふうん。待ってる間は船員は何をやってるんだい?」

「主に飲むか寝るか、ですね」

「なるほど。忙しいトコ悪かったね」


「兄さん、特に怪しいところは無いみたいね」

「ああ、漁村はな。明日は半島の山間部も見に行こうか」


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