3-20 勇者の新しい仲間達 その1 エリックとダレス
早速殿下にアポを取りアリアを紹介する。
アリアは大賢者サミュエルが存命ではあるが
もう寿命が近いことを殿下に伝えた。
「賢者アリア殿。あの伝説の大賢者サミュエル様が
生きておられるとは驚きだ」
「エルフは寿命が長いんです。
そしてサミュエル様は最後のエルフです」
「アリア殿はなにが得意なんだね?」
「はい、魔法の固定化や精神干渉系が得意ですよ」
同席していたマチルダ女王の眉がぴくりと動く。
「ちょっと質問いいかしら」
「なんなりと。女王様」
マチルダはクレイグが仕掛けた大規模精神干渉魔法を説明した。
「はい、可能ですね。それだけの魔石があれば長期間にわたる
固定化もできるでしょう。
しかし術者が自身の魔石を固定化に使うというのも
可能ではありますが倫理的にはアウトでしょうね」
「でもクレイグはそれをやった。どうやって人選したのか
あるいは強要したのかは不明だし解明も難しいわね。
ありがとう賢者アリアさん。参考になったわ」
殿下と女王への謁見が終わるとアリアはしかるべき部署で
勇者メンバーとしての登録作業を行った。
健康診断から帰ってきたアリアに尋ねてみる。
「全裸になって肛門まで調べられたか?」
「はい?おくちアーンして身長計ったりしただけですよ」
「まじか。俺の時はもっとハードだったぞ」
「なるほど。オムコに行けませんね」
「やかましわ」
セシリアがにやにや笑っている。
何を想像してんだ。
「じゃあエリック、私はアリアさんを教会に連れて行くね」
「ああ頼む。俺は老師のところに行ってくる」
門まで三人で一緒に行きそこで別れる。
スフィーア亡命政府は王城の近くにある。
近隣諸国の大使館や地方貴族達の別邸が立ち並ぶ区画だ。
入り口に立ってる歩哨が敬礼してきた。
「ご苦労様です」
俺は顔パスであるが初めて尋ねて来た人物は
身分証明を提示しなければならない。
建物の中に入り老師を探した。
「部屋にはいないな。出掛けているのかな?」
廊下に出るとどこからかかすかに話し声が聞こえてきた。
「裏庭の方だな。老師が訓練でもやってるのかな。
ちょっと覗いてみるか」
『おいエリック、今ノゾキと言ったか?』
『おお、えーちゃん起きてたんか。
裏庭を覗けるかい?』
『お安いご用だ。ちょっと待ってろよ、映像送るぞ』
俺の頭の中にエーチャンの俯瞰映像が
映し出される。
中庭のケヤキの大木の辺りに人が二人いるが木の枝が邪魔して
良く見えない。
二人が木の陰から姿を現した。
『エドとマリアン。こりゃまた意外な組み合わせだな』
『エドって何歳だっけ?』
『確か40才前後。ついでに言うならば独身』
『マリアンは20代半ばだな。まあ独身同士ならいいんじゃない?』
『うん、俺もそう思う。これは見なかったことにしよう』
「おいエリックじゃないか。来てたのか」
後ろから老師に声を掛けられた。
「老師、探してたんですよ」
「ちょいと小腹が空いたので食堂に行っておったわい」
「そうですか。少し話したいことがありまして」
「内緒話かね?」
「いえいつものメンツなら問題ないです」
応接間に通されて待っているとシェリーとエドが入ってきた。
このメンツでゆっくり会うのは久しぶりだ。
話を始めようとした時に誰かが部屋をノックして
ワゴンを押して入ってきた。
「ありゃ、マリアン。なんでここでメイドさんやってんの」
『ひゅーひゅー』
『えーちゃんうるさい』
「うふふ、たまたま用事があって来てただけよ。
それでは皆さんごきげんよう」
「はあ。ごきげんよう」
『マリアンにっこにこだね。こりゃ本物だわ』
『うん、しかしえーちゃん浮いた話好きだね』
「でエリック、話とはなんじゃ?」
「はい老師。これを見てください」
俺は首からぶら下げたペンダントを見せた。
小さな金属製の丸いメダルには六芒星が描かれてあり
外縁には見たことのない種類の文字がびっしり描かれてある。
「これは大賢者サミュエル様から貰いました。
どうやら俺専用の魔力を増幅する装置らしいです」
「ちょっと触っていいかの」
「どうぞ」
老師にペンダントを渡した。
「伝説のエルフ種最後の生き残りか。
残念ながらワシは詳しくない。
が、このメダルからは妙な波長というかなんというか
魔力ではない何かを感じるな。
こんな程度の事しかわからんでスマンの」
「いえいえ、仕組みが解れば量産できるかなと思ったんですが
無理っぽいですね。ありがとう御座いました。
ところでエドもシェリーも変わりない?」
シエリーは冒険者だった頃とは別人のようだ。
大きな違いはスカートはいてお化粧してること。
髪も伸びて本当にお姫様っぽい。
「エリック、しばらく一緒に寝てないわね」
「はは、そんなに昔の事じゃないのに懐かしく感じるね」
最初に空の手ほどきをしてくれたのはシェリーだ。
報酬代わりの魔力を分けるためによく一緒に寝ていた。
文字通り就寝しただけでエロい展開一切無しという
苦行でもあったが。
「最近新しい護衛が付いたんだけどあまりやることがないのよ。
もし良かったらエリックと行動を共に出来ないかしら。
剛力の持ち主だからアケミの代わりになるわよ」
「まじっすか。会ってみたい」
そんなわけで軍の練兵場にやってきたのだ。
「勇者さんはじめまして、僕ダレス・コフロイです!」
「エリックって呼んで。たぶん同い年だよ」
純朴そうな田舎少年であるダレス。
まずは剛力のテストだな。
大賢者に聞いた先代勇者とリリアンの
訓練内容を思い出してみる。
「え、投げ飛ばすの?じゃあいくよ!」
ダレスは俺を軽く頭上に持ち上げた。
やり投げの要領で飛ばそうとしてるので俺もダレスが
投げやすいように身体を一直線にピンと張る。
投げられた瞬間初速に耐えられずに目を閉じる。
薄く目を開けると物凄い勢いで景色が後方に流れていった。
「すげー、空飛んでるよ」
適当な所で空を繋ぎ着地。
皆の所に帰る。
「ダレス、凄いな!」
「いや無事に帰ってくるエリックの方が凄いよ」
「よっしゃ!じゃあ次じゃこれをあの的に向かって投げてみて」
俺は土魔法で野球ボール程度の丸い石球を何個か作った。
ダレスは早速一球投げてみる。
「ていっ!」
「お、サマになってる。でもまあ一応教えるね」
オーバースローを教える。
ダレスは飲み込みが早かった。
「左足を上げてからもう少し上半身をひねってごらん」
ちょっと違うけどトルネード投法っぽくなったぞ。
「なんかいぢられてる気がするんだけど」
「気のせいだよ。じゃあ本気出してあの的を狙ってごらん」
ダレスは振りかぶって全力のオーバースローで石球を投げた。
速すぎて腕の振りが見えない。
ブン、という大気を切り裂く音が短く響く。
投げられた石球は一瞬で50m先の的を粉砕するもその勢いは衰えない。
的を粉砕した直後に石弾は軽くホップし軌道を変えた。
石球の廻りのイオン化した空気は青白い航跡を引く。
さながら地上で見る流れ星のようだ。
大気との摩擦で燃え尽きた石球は空の彼方でフッと姿を消した。
俺は唖然としてつぶやいた。
「なんだ今のは」
「なにって・・・・エリックが投げ方を教えてくれたからだよ。
こうやれば正確にしかも速い球が投げられるんだね!」
「教わってすぐできるもんじゃないよ。
ダレスは才能あるな」
もし仮にダレスがこの能力を持って
地球の日本の甲子園に出場したらどうなるだろうか?
「死人がでるな」
「なんか言った?」
「いやなんでもない。
投げやすい石球を幾つか持ち歩くようにしようか。
武器になるぞ」
「それはイイネ!僕の手に合わせてもう一回り小さくしてよ」
アケミが帰ってきたらダレスの球を打たせてみたいな。