第三話 この世界 そのいち
今日は終わるといったな、アレは嘘だ。
少なくない努力によりとうとう二足歩行可能になった雄一は、更に数ヶ月の間で言葉の聞き取りと理解をも可能にしていた。
「これが『い』で、こっちが『ろ』ね?」
「いー、おー」
発音はともかく。
(母音だけじゃなくて、いきなり子音も教わるのか…)
彼が言語をある程度習得できたのは、彼自身の努力の賜物であるが、
「こっちが『と』ね?」
「おー」
(だから無理だって!)
飽きることなく、今も言葉を教え続けてくれる今世は彼の母親、マーガレットのおかげでもある。
彼女は一日の殆どを彼の居る部屋で過ごし、更にその大半を彼への絵本の読み聞かせに費やしてくれている。
「スーパー戦隊おおかみ君」
絵本の内容はアレだが。
「『悪行はそこまでだ!』『出たなスーパーおおかみ君レッド!』『貴様の弱点ビシッと!』『ソリャァー!』」
彼女は演技派だ。
(もうちょっとマシな絵本ないのかな…)
ーーーーーーーーーー
絵本を聞いていると時々、国の名前が出てくる。
その全てが全く聞いたことのない国名だったが、マーガレット曰く、
「この絵本に出てくる国は私達の住んでいる国よ」
「この強い人たちは、強い人だけを集めた自分達の国を作りましたとさ。あ、これが大陸南方端にある国ね」
らしいので、どうやら現存しているようである。
ここが、前世と同じ地球のどこかで、存在する国ならば、一つや二つ知っている名前が出てきそうだが、今のところ全くないのである。
(これはいよいよ怪しいぞ…)
未来の地球とか…?などと考えていると、マーガレットが読んでいた絵本をほっぽりだし、本棚へと向かった。
(育児放棄かな?問題案件ですよ!)
彼が心の中で叫びながら睨んでいる当の彼女は、慣れた手つきで子供部屋にある本棚から一冊の書籍を取り出した。
マーガレットはそれを開きながら彼のもとへと戻ってくる。
(歩き読みとはいけませんなあ)
「ほら、さっきの国はここよ」
そういって彼女が雄一に差し出してきたのは本の一ページ目、つまり世界地図…のはずだが。
「う、うわああああああん」
「あら、おしめ?」




