第三十五話 書店にて
コメディ要素多めでトライ。
今回は少なめです。
「ごきげんよう。」
ニッコリと微笑んで挨拶の言葉をアグへと贈る聖女様。
しかし彼にとってそれは逆効果。
背中をゾクゾクと冷たいものが走るのを我慢して返す。
「ど、どうも」
頬を引きつらせるアグの様子を知ってか知らずか、彼女は雑談を始める。
「アグネウスさんはよくこちらにいらっしゃるんですか?」
「い、いえ、今日初めてきました。」
「まあ!」
いかにも感激、といった感じで手を合わせる聖女。
「実は私も今日初めてこちらでお仕事をさせてもらっていますの。」
「そ、そうなんですか。」
「ええ!こちらの店主はホントウに良い方で…」
アグはその言葉から先の話を覚えていない。
聖女の口というマシンガンの発射口から発された単語の数々はアグの耳を穿ち、彼の脳を機能しないものへと変えてしまった。
「…なんですよねえ。でもまさか貴方がいらっしゃるとは意外でしたわ。学校では…その…あまり学問に興味のない方だとよくお聞きしますので…」
弾丸の嵐は止み、戦場に静寂が訪れる。
そこにアグの魂は無い。
いつまでたっても返事のない彼を心配した聖女は再び声をかけようとするも、その試みは失敗に終わる。
「ほーぅここが我が国の愚民共が使うという書店か。」
「…ふぇ?」
あまりの酷い物言いに口から気の抜けた声を漏らしてしまう聖女。
軽くショックを受けながらも彼女がその言葉の発声源を探ると、そこにあったのは。
「どれ、愚民共の趣向を把握するのもこの国の次期当主としての役割だからな。見物といくか。」
アグの同級生にしてアーノルド王国王子、オージ・アーノルド。
「まずは私と寝床を共にするのに最適なオナゴを…って、聖女ォ!?」
レジに立つ聖女を見つけた王子の顔が驚愕の色に染まる。
脳の再起動を果たしたアグ。
なぜか呆けている聖女の視線を辿り、オージの存在を確認すると。
「王子ィ!?」
聖女だけでも手に余る存在なのだが、そこに王子が加わるという現実と遠くない未来を想像し、恐怖で脚が竦んでしまう。
三者三様
その絵面はまさに混沌。
「聖女様調子はどう…ってなんじゃこりゃあ!?」
「えーっと数学数学ぅぅううう!?!?」
「ちわー、ミカワヤーーーッ!?」
聖女の働き具合を確認しに来た店主、買い物に来た少女、配達に回ってきた青年、その全てがアグ達三人によって構成された芸術を前にして言葉を失う。
この様子は後日、新聞の一隅にも載ったそう。




