第三十一話 奴隷
男たちが怒鳴りながらこちらへ突っ込んでくる。
彼らは大きな袋を数人がかりで持ち運んでいるようだった。
(強盗か?)
いくらこの国の治安が良いと評判であっても、犯罪が無いわけではない。
この程度の事件なら比較的よく起こる。
(ここで捕まえれば謝礼金とか貰えるのかな?)
宿でバイトを行っているが、収入のほぼ全てが学校関係の費用に当てられている。
息抜きのためにもボーナス的な大きい収入が欲しいと考えていたところであった。
しかしその行動はきっと彼を事件に巻き込むだろう。
面倒事。
(背に腹は変えられぬ、か。)
狭い路地のため、端に移動し、半身を後ろに回して避けようと試みる。
「曲がれええ!」
だが男たちは勢いを殺すことに失敗したようだ。その速度のまま緩やかなカーブの外側、アグのいる位置へと突っ込む。
「おいいいい!!」
男たちのドジへの驚きと呆れを込めた声を漏らしながら、急いでオーラの壁を作る。
彼も痛いのは嫌いなのだ。
ゴン!ゴツン!ドサッ
男たちは運動エネルギーの如何なるかをその身体で体感した。
きっと貴重な体験になっただろう。
目を回す男たち。
(面倒だし逃げるか…)
言い争いへと発展する前にその場を去ろうとする彼。
ふと、目の端に袋の中身が映り込む。
一度は顔を背けるが、もう一度、今度は顔を真正面へと向けてよく調べる。
「な…」
そこには女の子が全裸の状態でうずくまっていた。
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奴隷。
人間として扱われることのない身分である。
その身の全てが主へと委託され、どんなに悲惨な行為を受けても立件されることはない。
この制度は他の様々な国でも見られる。
理由は様々だ。
治安のため。
奴隷へと成る要因には大きく二つがある。
一つは片親が奴隷の場合。
奴隷とその身分以外の者との間にできた子供も奴隷として扱われる。
二つ目は犯罪を犯して身分を落とした場合。
これにより国民は犯罪行為を退ける。
政治不満。
収入が普通やそれ以下の国民は己の優れない現状を、政治を執り行う機関へと向けようとする。
だが奴隷という身分があれば、『自分はあれに比べればまだマシな方だ』と幾分かその不満を和らげることができる。
これらが大きな理由だ。日本の江戸時代は穢多非人制度に似たもの、と言えば分かりやすいだろうか。
表向きにはしないが、もう一つ別の大きな理由で単純に自らの欲求解消のためという目的も恐らく、いや確実にあるだろう。
女の子の腕には赤いベルトのようなものがあった。
これは彼女が奴隷である証。
「おいガキ」
男の声でアグは思考の海から現実へと戻る。
「はいなんでしょう。」
「てめえふざけんなよ。」
ぶつかった所が痛むのか、先程アグに突進をかました彼らの一人は頭を抑えながら立ち上がる。
「すいません。」
「それで済んだら衛兵はいらね…やべえっ!」
怒鳴り声を上げようとするも、言っている最中に何かに思い至ったのか、それまで真っ赤だった顔を真っ青にしながら、彼は未だ倒れたままの仲間達を起こしにかかる。
「お前ら!早くこいつを運ぶぞ!」
「へ、へい。」
彼らは慌てた様子で立ち上がり、少女を袋に詰め込み直す。
「いいか?今あったことは忘れろよ?さもないと…わかってるよな?」
「…はい。」
男たちはアグが来た道を走って進んでいく。
その姿は建物に隠れて見えなくなってしまった。
アグ一人を残したまま。
「…これでいいんだ。」
重く、憂鬱な気持ちを抱えながら、すっかり興が冷めてしまった彼は、元来た道を、盗賊たちが進んでいった道を辿る。
とぼとぼと。




