第三十話 路地裏
三十話です。閑話を24時に投稿致します。
「なあ。」
授業で魔法の練習をしていると、同じく魔法の授業を選択したテオが彼に話しかけてくる。
「なんだ?」
「お前、好きな人とかいるのか?」
「はぃぃ?」
突拍子のないことを聞かれ、驚きながらテオを見る。
あったのは、心ここにあらずといった具合の彼であった。
心配したアグは気を使おうとするも。
「…お前、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫さ…聖女様がいらっしゃればな…」
「…」
どうやらまた聖女様が関係しているようだ。
テオは彼女のことになるといつも、らしくない行動を取るのである。
呆れるアグになお返答を求める。
「で、どうなんだ?」
「いや、いないかな…」
「本当は?」
「居ないよ。」
「っていうのは建前で?」
「本音も居ない。」
「ありえるかそんなの?」
「さあな。」
アグとて一度は通った小学生という身分。
友人が恋(のようなもの)にうつつを抜かしていても、度が過ぎない限り咎めないようにしようと誓っていた。
なにせ彼らはまだ七歳かそこら辺なのだから。
(とはいったものの、テオはいつもちょっと行き過ぎな気がしなくもないけど…。)
テオが聖女と接した後はいつもこうだ。
魂の身体からの解脱、天を仰ぐ、自然への感謝、これらはもはや彼の十八番とも言える。
(恋か…。)
アグは前世を想い返す。
『めいちゃん好きー!』
互いに好意を抱いていた小学校の同級生は成長するとそっけない態度を取られるようになっていった。
『好きです。』
勇気を振り絞って告白した中学校の同級生には振られた。
『付き合ってくれ!』
勝機ありと、想いを伝えた高校の同級生にも断られ。
『…』
ボディータッチの激しい大学の同級生は、蓋を開ければ短い期間で男性との交際を繰り返す魔性の女であった。
脳内で己の歴史を鑑賞し終わったアグネウスはテオに一言忠告する。
「…お前は気をつけろよ。」
「ああ…」
聞き逃されることを承知で発言したものの、だらしなく口端からよだれをたらすテオに、やれやれと首を振るアグであった。
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下校途中、宿のバイトまでの時間を買い物に費やそうと商店街に立寄った。
「ははーん」
前世にはない道具、食べ物を興奮しながら舐めるように眺める。
その内容は毎日変わるので、彼は度々ここを訪れていた。
「今日はマニアックな店とか見てみたいな。」
そういってアグは路地裏へと足を進める。
「うわあ…」
薄暗い路地には、大通りで見ることが憚れるような店が軒を連ねていた。
「不老不死の薬、惚れ薬、木製のキノコっぽい玩具…これ本当に合法なのか?」
マーガレットからは、路地裏と言えども街の衛兵が見回るので、国の定めた法律に違反する商品を売る店は無いに等しいと聞いていたのだが、そこにあったのは到底凝視することができないものばかりだった。
「かわいい坊や、寄っていかない?」
「え?」
声のした方に振り向くと、露出の多い女性がアグを見つめていた。
「一回10万セントでいいわよ。」
「はあ…」
女性の後ろにある店をみる。
看板には『きのこもりもり』と書いてあった。
(あっ、これだめなやつだ。)
「すいませんちょっと急いでるので。」
「ぁあん、まってよぉ〜」
甘い声を背に受けながら全速力で彼女から遠ざかる。
「はあ、はあ、危なかった…」
女性が声を掛けてきた理由は単純。
アグが男で、女性がいわゆる娼婦であったからだ。
だが、そういう店で行為に及べるのは成人してから、つまり15歳になってからである。
彼女はそれにもかかわらずアグを誘惑した。
つまり。
(あれ絶対非合法だろ…)
という訳で、彼は逃げたのだ。
(衛兵に伝えたほうがいいかな…。)
考え事をしながら歩くアグ。
しかし車輪の地を踏む音が近づいてくることに気づき、視線を上げる。
「そこをどけええええ!!!」
「あいえええええ!!?!?」
蛇行した道の奥から姿を表したのは、猛スピードでこちらへ向かってくる男たちだった。




