第二十六話 授業 そのさん
このようにしてアグの規格外さが表立ったのだが。
「先生、俺の今の魔力って世界に通用しますか?」
「いえ、あなたくらいの魔力を持った人は世界に五万といましゅよ。」
「左様ですか。」
それは『この学校の中』での話だった。
「かの有名なゲンガーしゃんはやろうと思えば国一つ滅ぼすことができたみたいでしゅよ。」
「ふぇえ…。」
ゲンガー・フランク
実在した男性らしいが、今は亡い。
強大な魔力と魔法を持つことでその名を全世界に知らしめ、多くの人々を恐怖のどん底へと陥れた。
しかし一方で国々の思惑に利用されることとなり、最後は味方した国から裏切られるという悲しい結末を迎えたそう。
その後の足取りは掴めなかったそうだが。
(世界は広いなぁ…。)
周りに気づかれないよう口角を吊り上げるアグだった。
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それから数回の授業は、魔法に初めて触れる者が魔力を扱い慣れるまで物を浮かす練習に費やした。
初めての者は鉛筆を、既に魔力があった者は本を、才能ある者は机やそれ以上の質量がある物体を持ち上げるまでに至った。
ちなみに毎日の魔力循環を欠かさなかったアグネウスは机と本数冊を同時に持ち上げることができる。
客観的に見ればその程度の差しかない。
「先生を驚かせたし、もう暫くは先輩ヅラできると思ってたんだけどなぁ」
「物を浮かす程度で才能使ってもいいのか?」
「それもそうか。」
アグの呟きに反応を示したその人は、近頃アグと仲の良い、同じクラスのプロメテウス君である。
彼は平民の出で、魔法の才能もまあまあにある。
プロメテウス君はその名前の長さを自覚しているようで。
『テオと呼んでくれ。』
と言っていたが、どうすればそう略すことが出来るのだろう、とアグを悩ませる種のひとつになっていた。
「テオはこの前、本を浮かせてたよな。進捗はどうなんだい?」
「今は三冊くらい浮かせるようになったぜ。」
「成長著しいな。」
「違いない。」
魔法に資質がある者の大半は貴族や大臣の息子というせいか、アグからすれば鼻につくような態度を取っている。
その点、テオは自らの能力を自覚していながらも、ふんぞり返ることなく努力を怠らないので、アグに好感を与えていた。
テオの方も、アグの程よい適当さに居心地の良さを感じたのか、本人の知らぬうちにつるむ機会が多いものとなっていた。
因みに彼は、アグが初登校で笑われたことについて。
『正直俺も笑っちまったが、まあそのなんだ…スマン。』
『良いよ、俺もわかっててやったことだし。』
『そうなのか?』
と頭を下げて謝ってくれたので、すぐに仲直りができた。
今では、彼らは互いに良き友となっている。
中身のない雑談を続けていた彼らの元に、一人の少女が近寄る。
「あら、なんの話をなさってますの?」
「せ、聖女様!」
テオはその姿を視界に入れた瞬間、普段の彼の態度からは想像できない反応を示した。
両頬を赤くし、目尻や口元がだらしなくなり、胴体は棒と化している。声も裏返させていた。
『セイジョサマァァァァ↑↑↑↑↑』と言った感じだ。
アグはその様子を見て笑いを噛み締めながらも、聖女と呼ばれた女性に注意を向ける。
アリス・ワンダーランド。一応、名前だ。ワンダーランド神聖国の役職である、聖女という肩書きを持つ。アグ達の先輩だ。
自身は神聖国出身らしいが、見聞を広めるためアーノルド王国立学校へ留学に来たらしい。
彼女は度々下級生達の元を訪れ、その美貌で多くの学生を虜にしている。
アグは、そのわざとらしい仕草や笑顔、怪しい出生などを理由付け、警戒心顕に接触を避けている。
だが。
「ごきげんよう」
スカートの端を持ち上げて控えめに礼をする聖女。
時間が悪いときに限ってその美しい姿を彼の前に晒すのだ。
(はあ…)
こっそりとため息を吐いて、気を引き締める。
「こんにちは聖女さま。」
「はい、ご機嫌よう。」
その顔は笑顔だ。
だが、どんな腹黒いことを考えているか分からない。
アグは緊張感を十二分に感じながらも戦闘を開始するのであった。
なんとか聖女との遭遇戦に勝利し、角が立たないようフル回転させていた頭を冷やしていると、予鈴が鳴り、アイリーンちゃん…先生が現れる。
(まほー…)
未だアグの脳は熱暴走したままだった。




