第二十四話 授業 そのいち
私の通ってた学校はあまり実験とかしなかったので、カエルの解剖とかちょっと憧れなんでもないですなんでもないからそれこっちに持ってこなアアアアアア
前日のバイトで生気を抜かれたアグは、入学二日目で目元に隈を作っての登校となった。
しかし彼の頭はギンギンに冴えていた。登校時に限って。
(今日は待ちに待った魔法の授業だ。)
彼は自分が興味のあることに限っては単純だ。
だが、関心があるのは魔法だけであって。
「そこ!寝ない!」
それ以外の授業では申し訳なさげもなく、机上に組んだ両腕へ顔を埋めて、不足した分の睡眠時間を取り戻すかのように居眠りをし続ける。
ついには、サディストが持っていそうなメガネをかけた老齢の女性にまで怒られる始末。
「あいつマジかよ…」
「ありえねえ…」
昨日あれだけ嘲笑していた同級生も呆れる。
彼に小指のアレが出来ない理由の一端がま見える瞬間であった。
しかし、お待ちかねの魔法の時間になると。
「ふむふむなるほどたまげたなぁ」
前のめりで板書を写す。分かりやすいヤツ。
「あいつマジかよ…」
「ありえねえ…」
先ほどと同じ会話が繰り返されるその様子は喜劇のそれだと思われても仕方がないだろう。
ーーーーー
それはともかく。
魔法の授業である。
『初回は座学です。』
事前に通知があったので誰一人欠けることなく席についていた。
他のクラスにはそれにもかかわらず、実技の実行場所である魔法修練場へ向かった児童が居たらしいが…
この教室にそういう不届き者は居なかった。
「今日からしばらくの間は魔法の基礎知識をお教えしましゅ。」
女性というよりは女児と呼んだほうが違和感はないだろう。呂律の怪しい彼女こそ、アグ達の魔法授業を担当することになったアイリーンちゃん…アイリーン先生である。
「見かけで判断しない方がいいでしゅ、あなた達くらいなら私のオーラでひと捻りできましゅ。」
信じられるか!という空気の中、ひとり目を輝かせて話の続きを待つアグネウス君。
そんな彼が授業で纏めた内容はこうだ。
魔法とはオーラで現実世界に干渉を行う力とその結果である。
それを行使すると物を浮かせたり、作り出せたりと、様々な現象を引き起こすことが可能である。
また、例えば物質を浮遊させるとひとりでに浮いているように見えるが、実際は体から出したオーラで支えている。つまりオーラで直接、対象に触れないと魔法を実行することは出来ない。
「エルフやドワーフなどは一見して私達人間や獣人、ホビットとは異なる魔法を使っているように見えましゅが、しょの本質は同じものでしゅ。」
余談だが、この世界においてエルフとは、森に住んでいる者たちのことを、ドワーフは地下に住処を置く者たちのことを指す。
人間は髪以外にほとんど毛を生やさない種族のことを、獣人はそれに加えて毛の生えた動物っぽい耳や鼻、尻尾を持った者たちのことを、ホビットは髪とは別の部位に毛を長く生やした者たちのことを言う。
人間、獣人、ホビットの内の二人が交ざり合っても、なぜかそれぞれの特徴を混合させた子孫が生まれることはなく、必ずどちらか一つの種となる。
エルフやドワーフは先述した環境に住む者たちのことを言うので、人間でも、森に住んでいればエルフと呼ばれる。
この事実は彼がたまたま起きていた授業でやっていた内容だ。どこかの中つ国とはだいぶ違うらしい。
もちろん前世とは違う世界なので、『エルフ』や『ホビット』などとはっきり言っているわけではないが…、アグの脳は主の知らないところでうまく言葉を変換していた。
ちなみに彼のクラスにも獣人やホビットは在席している。
アグの、通路を挟んで隣の席の娘などはうさ耳とまんまるい尻尾を標準装備している。
「エルフはその性質上、使う魔法は水や木に干渉することが得意でしゅ。ドワーフは鍛冶が得意なので火や土、というか鉱石を扱うことが上手でしゅ。私達のようなタウナーはどのようなものに対しても平均して上手く影響を与えることができましゅ。まあエルフやドワーフの得意分野には敵いましぇんけどね。」
これは先生の言葉だ。
タウナーとは、アグのように、平地や山、湖に囲まれた街で暮らす人々のことを言う。
エルフ、ドワーフ、タウナー、この世界にはその三つが暮らしていると言われている。
空や海に暮らす種族は確認されていない。
ノートはそこで途切れている。
終業を示すチャイムが鳴ったのだ。
「あー鳴っちゃいましたね。じゃあ授業を終わりましゅ。次回は実技なので魔法修練場に来てくだしゃい。」
教室は一気に騒がしくなる。
その隙を逃さんとばかりに駆け足で教室を去るアイリーンちゃん。じゃない、先生。
(不思議な人だったな…)
独特の雰囲気を醸す彼女に生気を抜き取られたアグは、大きくため息をついて帰宅の準備を始める。




