第十九話 入試 そのいち
私も受験を経験しましたが、もうあの頃のように無我夢中で勉強することは出来そうにないです。
きらびやかな服や彼と同じような服をした大量の人々が、門を通り建物へと吸い込まれていく。
(ついに入試か…)
アグはその光景を見ながら思う。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐くことで心を落ち着ける。
「よし!」
頬を両手で叩いてから、彼も校内の受付へと向かう。
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「はじめ!」
ハゲ面の教師の一言で、教室に詰め込まれた未来の生徒候補たちは一斉に紙を表に返す。
(解ける…解けるぞ!)
スパルタ教師マーガレットから二年間教えを受けたアグは進撃を続ける。
受験の形式は筆記。筆記試験に必要な科目は数学、国語、地理、歴史、魔法。それぞれの問題が一枚の紙に両面刷りで印刷されており、100分…この世界では別の単位だが…でそれらを解かなければならない。
どうやらこの世界の科学はあまり進んでいないらしく、物理や生物、化学といった教科はなかった。
数学も調べたところ、微積のような概念は発見できなかった。
その代わりに、地球になかったような公式が幾つか存在したが、曲がりなりにも元大学生であるアグの敵ではなかった。
魔法は魔力やオーラ、そして魔法に関する基本的なことしか出題されないので、これもまた右に同じだった。
「はい、終了です。お疲れ様でした。」
鉛筆…地球のそれとほとんど変わらない…を置く音が教室を満たす。
「終わった…」
うーっ、と体を解すアグ。
「なんとか受かりそうだな」
手応えは感じていた。
合格発表は一週間後(六日後)にあるらしい。
「宿の滞在期日…伸ばさないとな。」
そう言いながら寝床へと足を向ける彼であった。
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「どうだった?」
宿屋の食堂で食事をしていたアグに宿屋の女将…アンナが声をかける。
「まあまあだったよ。」
適当に返事をするアグ。彼の頭は今、目の前のシチューで一杯だった。
「美味しそうに食うねぇ。うちの旦那にもみせてやりたいわ。」
「旦那?」
食堂の料理は彼女の夫とその部下が作っているらしい。
「おいしいからね。旦那さんにもそう伝えておくれよ。」
「ええ!きっと喜ぶわ!」
にっこりと笑う彼女であった。




