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第十五話 魔力循環

PV1100ユニーク300アクセス達成です!

ありがとうございます(*´ω`*)

森の間を進む馬車は、ガタンゴトンと揺れながらも目的地へと向かう。

彼はここ数日間延々と湧き続ける興奮を持て余していた。

なにせ、あの屋敷からやっと解放され、魔法を学べる学園へと向かっているのだから。

学校という言葉に不安が無いわけではないが、今はそれよりも期待のほうが大きく勝っていたので、あまり気にならなかった。


(暇だな…)


馬車の座席に座ってぼーっと外の景色を眺めていたアグネウスだったが、いつまでも変わらない景色に飽きを覚え、また、行き場のない高揚感に耐えきれなくなったので暇つぶしをすることにした。


マーガレットは物を浮かす程度の魔法は使えるが、それ以外の例えば水を生み出すといった現象の生み出し方は知らなかった。


『学校は行ったけど、魔法の科目は取らなかったからね。』


とは彼女の言い分だ。

しかし、魔法授業を取っていた彼女の友人から上達のコツを聞いたことがあるとか。

方法は単純明快。


アグは胡座あぐらをかいて目をつむり、両手で作った輪っかを、組んだ足の上、へそのあたりに置く。

すると、彼の周囲の景色が歪み始める。


「ふぅー…」


魔力循環。体内の魔力を操作してぐるぐると循環させることである。

循環させることで魔力の流れる通路を広げ、流れをよくさせる。

また、その間に体から漏れ出した魔力は、周囲の空気の光屈折率に影響し、実行者の周囲は歪んで見える。

魔力循環は習慣としてコツコツと行うことで、魔力を一度に出せる量が増えたり、扱いがうまくなっていくそう。

マーガレットの友人はお陰で、ある王国の魔法軍に徴兵されて今では名高い魔法師の一人となっているらしい。


(暑い…)


魔力循環は、血の巡りも促進させるらしく、体に溜まっている老廃物を体外へと押し出す効果も持っている。

彼の母、マーガレットは自らの美貌の秘訣は習慣のそれだ、とドヤ顔で語っていた。


そんな彼女もアグが毎日魔力循環していることを知ったとき、綺麗な顔を引きつらせていた。


『アグ…人間やめるの?』


その心は。


『私も当時の友人も、あなたみたく毎日は出来ないわよ…』


もちろんアグこそ最初は数日おきだった。が、暇な時間を持て余すうちに日課になっていたのだから仕方ない。

やめる理由も見当たらなかったので変わりなく習慣として行っているのだが、その言葉で少し傷ついたのは、彼女が泣いてしまうので、ここだけの話だ。


ちなみに、彼は武道で行う黙想のような体勢で魔力循環を行っているが、形に決まりはないので、マーガレットなどは体育座りをして循環させていた。


(あれは傑作だった。)


アグは、当時の様子を思い出しクスリと笑う。しかし、数日間あっていない彼女の、優しげな笑顔まで連想したところで、妄想をやめる。


(重度のマザコンだな…)


涙をうっすらと浮かべる彼だった。




ーーーーーーーーーー




魔力を循環させることは、意外にもスタミナの消費を要する。

しばらく黙想を行っていたアグだったが、体力の減少による疲労を感じ、魔力循環を打ちやめる。

息を整えた彼は、馬を操る御者に話しかけた。


「お兄さん、まだ掛かりそう?」

「え?あ、うーん、もう少し…かな?」


馬車の御者とは、謙遜なく語り合える仲を築いていた。ここ数日で見慣れた満月のように真ん丸るい彼の眼だが、今は地平線から出たばかりの上弦の月に似ていた。


(馬車の居眠り運転を罰せる法律ってあるのだろうか…)


アグは、荷車を引く馬の賢さに感謝した。

上弦の月は、南中したとき、右半分が光って見える月のことです。

日数を重ねるごとに光る部分が増えていき、満月となってからは、逆に右側からかけていきます。三日月はその数日前に見える月です。

上弦の月は地平線から出るとき、弧が上に位置する半円、沈む直前は弧が下半分に位置する半円のように見えます。

つまり馬車の御者は、半分ほどしか目が開いていなかった訳ですね。

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