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アースの登場

拙いながらも書き続けていきたいと思いますので何卒長くお付き合いいただけると幸いです。

『本日はこのニュースからお送りいたします!』

 繁華街に設置された大型スクリーン、薄化粧でも美形といえる女性が微笑んでいた。

 彼女の声に街を歩く人々は画面を仰いでいた。手に携帯電話を持っている者、口をあけている者もいる。人々が帰宅の足を止めて耳を傾けていた。さらに女性の声が続く。

『さまざまな社会現象となっていたアースは、本日、日本全土への設置を完了いたしました。これは開発者サイトに載せられた公式情報です』

「そうだよね。いきなり情報が入ってきたもんね」

「サイトだけでも面白いけどな」

「たしかに」

 大型スクリーンを見上げていた男子高校生の二人がタッチ式スマートフォンに触れ、そのサイトを表示していた。

 そこには『未来の生活を』などという謳い文句。

「最初は悪戯かと思ったけど、徐々に新しい情報が更新されているからな」

 男子高校生のとなりに立っていたサラリーマンがぽつりと呟いた。そして、彼は横目で自分のスマートフォンの画面を眺めながら横断歩道を渡った。アースという単語に首を傾げた老人がサラリーマンの持っているそれを覗きこんだ。

 そこにはとあるサイトが、様々なアクセサリー型の通信機器の情報を載せていた。

 サイトの内容はウェアラブル通信デバイス『アース端末』が実現した予想図、『アース端末』での遊び方、アースネットワークの概要、それによる社会活動への影響などが事細かに予測的展望として描かれていた。

 直接会話をしているように感じる〈アース電話〉、視界に文面が表示される〈アースメール〉、登録した相手と情報を共有する〈アースタイムライン〉など様々な機能が紹介されている。そのどれもが近未来的、マンガで見たような世界。それは、人々の期待を集めるには十分すぎるものだった。

 人々の関心が向く中、匿名の人間による政府に提出された開発企画書。謎の個人資産家による大手通信会社の買収。このことはサイトの内容に現実味を持たせた。日本中の人々は新しい技術に対して羨望を抱き始めていた。

周囲の期待と共にネットワーク環境の設置範囲も徐々に広がった。

アースネットワークは従来のコンピュータ画面をそのまま視界に映し出すもの。

ネットワークの拡大計画の進行状況はリアルタイムでサイトに更新され、毎日更新されていた報告が数日止まることも一度。

しかし、遂にサイトには『完了』と記載されたのだ。

 社会現象とまでなっているこのサイト。その作成者こそが日本の注目を集めていた。

『開発者の一人はネットワーク構築を一人で行ったそうです。ネットワークにはEC言語と呼ばれる特殊なプログラム言語が用いられており、二名の開発者は匿名。資金などはもう一名の開発者が整えたそうです。いわば、構築者と資本者に分かれた二人組なのです。謎の二人によるネットワークの完成は今後の日本社会に多大な貢献となることでしょう』

「「「おおっ!」」」

 通行人は女性キャスターの言葉を聞き、歓声を上げる。

「アースがついに使えるようになるのか」

「結構速かったよな」

 サラリーマンの男性が携帯電話でニュースサイトを開きながら手を叩いて喜ぶ。

 彼と同じ行動を取るもの何人もいた。バスを待っている女性。さきほどまで疲れてうな垂れていた小太りの男性。

「そういえば、この開発者って高校生らしいよ」

「それ都市伝説でしょっ?」

「でも、高校生だとしたら天才ってやつだよね?」

 女子高生たちが謎の開発者の存在に心を躍らせ、話題に花を咲かせている。

 白髪混じりの年老いた男女の集団が大型スクリーンを見上げながらつぶやく。

「たしか、情報を可視化して携帯電話いらなくなるんじゃろ?」

「こんなもの作っちゃうなんてすごいわね」

「匿名で何億もの資金を国のために使うなんて、よっぽどこの国のことが好きなんだろ」

彼らは型落ちした電話機器を握りしめて、目を輝かせる。

『ネットワークの設置完了に伴って、アース端末の発売は来月にも始まるでしょう。これはネットワーク構築をした開発者が設計図などを企業各社に送り、製造が始まっております』

 女性キャスターの言葉に街の人々は溜息をついた。

「高くなるんだろうな……」

「どうせ庶民には手の出ないものだ……」

 街中が……日本全体が新たな技術に対する期待を捨て始め、これまでと変化のない社会への鬱屈とした気分を抱き始める。

 しかし、

『こちらの技術には開発費なし、内部構造は従来の携帯電話よりも簡素なため、販売各社は統一価格を設定し、携帯価格よりも低価格での提供を目指しているそうです』

 もう一度、日本中にどよめきが広がった。どんな人でも手に入れることができるかもしれないのだ。

「開発者さまさまだぜ!」

「ありえないでしょ?」

「物好きもいたものだな」

 これは後にアース技術の爆発的な普及に繋がることとなる。

『いったいこの開発者二人はどういった人物なのでしょう。この二人につながる痕跡は見つからず、政府は褒章を与える意思を固めておりますが、開発者が現れないため対応に困惑しているそうです』

 

とある家のテレビの前には小学生の男の子がいた。

「ママっ! 僕もあれが発売したらほしい!」

「しっかり宿題やっていればね」

キッチンから顔をのぞかせたエプロンの女性は悪戯な笑顔を男の子に向けた。

「僕そこまで悪い子じゃないよ」

 男の子は頬を膨らませて女性――母親に駆けよった。

「うふふ、そうね。パパと相談しましょっ。夜ご飯の準備ができたわよ」

 母親は男の子の頭を撫でると、食器を用意するように促す。

「はーい」

 男の子は目を輝かせて母親の声に従った。


 電車の中、携帯テレビでニュースを聞き流していた男性は耳を疑う。

「どんな人なのかわからないけど、体への影響は大丈夫なのか?」

 そんな男性の不安はすぐに解消されることとなる。

『また、こちらの安全性についての証明はすでに終わっており、政府公認の安全基準に遵守しているそうです。そして、政府関係者からは「開発者は名乗り出てほしい」などといった意見が上がっております。私もこの端末の発売が待ち遠しいです。それでは、次のニュースです――』

「俺も買おうかな……」

 男性も新技術の虜となりかけていた。


「新しいものに踊らされよって……」

 畳の敷かれた一室で、テレビ画面を見つめながら眉を寄せている老体の男性がいた。

「でもおじいちゃん、これがあればもっと楽しくて便利になるんだよ?」

 老人の膝の上に乗りながら一緒にニュースを見ていた女の子が、彼を見上げた。

「うっ……たしかにのぅ……」

 女の子の問いかけに決まりの悪そうに言葉を詰まらせる老人。

「おじいちゃんも使おうよ。そうすれば、美羽と一緒に遊べるんだよ?」

「っし、しかし……」

 女の子の無垢な笑顔を目にして、老人の積み重ねた圧縮された頑固さが揺らぎ始めた。

「美羽と遊びたくないの……?」

 首を傾げて泣きそうな表情になる女の子。

「っそ、そんなことはない。そうじゃな、美羽ちゃんのためにも、でじたる? をおぼえることもよいかもな」

「やった~」

 女の子は嬉しそうに老人にしがみついた。老人は次のニュースなど聞き流しながら微笑んだ。そして、彼は女の子の背中に、携帯など触ったことのない手を優しく置いた。


 新しく開発されたアース技術により、日本の通信事情は急速に成長した。

 ネットワークの設置完了の翌月に発売された『アース端末』は爆発的なヒットを記録する結果となった。

 莫大な売り上げの一部は開発者から提示された慈善団体に寄付をされ、貧しい子供たちを助けることとなる。もちろん、その多額の利益の大半は開発者の二人の還元されていた。

 さらに、アース端末を通して利用することのできる、アプリケーションやツール、セキュリティなどアース関連の開発は急速に進められた。

それを作る者は技術者と呼ばれた。

 こちらの開発には、従来のコンピュータ言語が使用可能であるため、解読不可能なアースのプログラムを構築するEC言語を扱えなくても問題はなかった。

 神経に直接作用し、視覚、嗅覚、聴覚、触覚に働きかけるという仕様は人々の興味を引いてやまない。

しかし、開発者の意向なのか、はたまた技術的な問題なのか、痛覚に作用することはない。これは子どものことを心配する親が安心してアース端末を子どもに与える理由となっていた。最近では政府が生まれたばかりの赤ん坊に端末を支給しているのだ。

さまざまな要因が重なり、アース端末の普及率を九十九パーセントにまで押し上げた。

 この急速な発展を支えた開発者二人は二年経過した今も姿を現していない。

 その存在は都市伝説として広がっている。

暇を持て余した天才実業家。天才中学生。大富豪の社会貢献。政府の陰謀。

 さまざまな憶測が飛ぶ中、その存在や目的を知るものは開発した本人にしかわからないものだ。そして、なぜ普及率が九十九パーセントであるのか。

これにはとある一人の少年が関係していた。



どうも始めまして、空き缶kと申します。

ようやく身辺が落ち着いてきたため久しぶりの投稿を継続したいと思い、再び筆をとりました。旅もの、SF、ファンタジーなど多種の物語を綴れるよう努力していきたい所存でございます。

短くではありますが、皆さまの少しの時間を頂けたことをここにお礼申し上げます。

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