クエスト
――小鳥たちの合唱が聞こえる。朝が来た。
「ふぁ〜。……朝メシ食うか」
俺は体を起こした。
「……あ。ここはゲームの中か」
いつもは、妹の優が朝ご飯を作ってくれていた。だが、ここはゲームの中だ。優はいない。
「今頃どうしてるかな」
そう思いつつ、買い出しに行こうと思ったが、ある事に気づいた。
「そういえば、昨日は眠くて晩飯食ってないな。あれ? いつからメシ食ってなかったっけ?」
記憶をたどってみると、昼間も武器やら防具やらで食べていない。それでも、空腹はしなかった。なぜだろう? と、思ったが、すぐに解決した。
「……ここはゲームの中だ」
なので、食べるという作業が要らないってことだ。
「さて、今日はどうしようかな」
出掛ける準備をし、外へ出る。本当は、昨日言われたオカリナを目指してもいいのだが、もう少し情報を集めたい。
「そうだ、我流技っての作って見るか」
我流技、自分でスキルを作ることができるらしい。だが――
「……どうやって作るんだ?」
そういえば我流技の作り方を教わっていなかった。
「んー。とりあえず、我流技は後回しにして、ポーションとか買いに行くか」
ポーション。攻撃を受け、減ってしまったHPを回復してくれる、お馴染みのアイテムだ。これがないと、簡単に死んでしまう。
「死……。HPがゼロになったら、俺はどうなるんだろう」
まだ死んだことがないので分からない。
「できるだけ死なないようにしよう……」
そんな事を考えていると、店に着いた。
「あった。これこれ」
俺は、すぐさまポーションを買い込んだ。
「よし、次は……ん?」
誰かの視線を感じる。だが、横を向いても誰もいない。
「誰もいない……気のせいか?」
そう思い、元の位置へ振り向こうとした、その時だった。
「いるよ!」
「え!?」
いきなり下の方から声が聞こえた。声のした方向を見ると、強気な女の子が立っていた。身長は中学生くらいだ。髪は赤く長いが、ポニーテール状に結んである。そして背中には、自分の身長よりも長い槍を背負っていた。
「えーっと。どこから来たの? 親の顔の特徴覚えてる?」
俺は迷子だと思い、そう話しかけた。すると……
「私は迷子じゃなーい! まったく、身長が小さいからってもー」
「……え? 違うの?」
「私は今年16歳になったんだから! 子供扱いしないで!」
「すみませんでした!」
俺は深々と頭を下げた。なぜなら、俺よりも年上だからだ。そうは言っても、今年で俺も16歳になる。彼女の方が、少しだけ誕生日が早いだけだ。なので、あまり変わりはない。
「ちょ、ちょっと。こんな所で頭下げないでよ。恥ずかしいじゃない」
「あ、ゴメン」
俺は頭を上げ、彼女の顔をみる。
「私の名前はアリーシャ。アリーでいいわよ」
「わかった。えっと、俺の名前は黒井健人。よろしく」
お互いに手を差し伸べ、握手をする。
「健人、突然だけど頼みがあるの」
「ん? 何?」
「特別な薬草を取ってきて欲しいの」
「薬草? それならこの店で……」
「それじゃダメなの……。ここから歩いて30分くらいのところに洞窟がある。そこに生えているのじゃないといけないの」
「なるほどね〜。じゃあ行くか、その洞窟」
今はまだ午前中だ。行って帰って来るだけなら、余裕で帰って来れるだろう。
「待って!」
アリーシャに引き止められた。
「どうした?」
「実はその洞窟、魔物が住んでいるの」
「魔物?」
いよいよ敵キャラらしき名前が登場した。これは戦闘の予感?
「そう、魔物。簡単に言うと、敵よ」
「ザックリしてるな……。でも、そいつがいるから薬草が取れない、だから俺に助けを求めたと?」
アリーシャはコクリとうなずいた。
「フムフム、まぁいいや。もうそろそろ、戦闘したかったし。行こう」
「本当!?」
「ああ」
「今まで誰も引き受けてくれなかったのに……やっと、やっと見つけた」
アリーシャは少し泣きそうな顔をしていた。何か意味があるのだろうか。
「それじゃ、しゅっぱーつ」
アリーシャがそう言い歩き初める。俺はそれについていく。
2人は、洞窟を目指して歩き始めるのだった――






