タイヤキくんの中身
あるところに、タイヤキがいました。
彼は自分が作られた後、お店の人の目を盗んで駆け出し、すみっこの影のところに隠れました。
それからずっとそこで暮らしています。
そこで暮らしているといっても、すみっこでじっとしているのも暇でしかたがなかったので、人に見つからないようにお店の様子をうかがったりしていました。お店には自分と似たような姿をしたものたちがいっぱいがいました。どうやらそれらは、どろどろしたものを黒いへこみに流し込んだうえに、またも黒いかたまりを入れて作られているようでした。タイヤキはしばらくその作業を見つめていましたが、ふと自分に似たものたちがどうなるのか疑問に思い、目で追っていると、それがお店の人から別の人へと渡されました。タイヤキが言いようのない不安な気持ちになった次の瞬間、自分に似たものがその人に食べられるのを目にしてしまいました。
タイヤキはとても恐ろしくなって、逃げるようにすみっこの影のところに戻って震えました。疲れるまでずっと震えていました。
そのときからタイヤキは色々と考えました。
なぜ人は自分に似たものたちを食べてしまうのか。
なぜそれを見るのが恐ろしいのか。
自分に似たものたちは恐ろしく思わないのか。
自分も見つかってしまえば食べられるのか。
自分は自分に似たものたちと同じものなのか。
自分は一体、何なのか。
そしてタイヤキは、自分の中身がなんなのかという疑問ばかりを考えるようになりました。
といっても、自分に似たものたちが作られるところを見ていましたから、自分の中身も黒いかたまりなのだろうと考えていました。しかしそれでも、自分の中身が気になってしかたがなかったのです。
ある日、タイヤキは改めて自分と似たものたちが作られていると確認しようと、おそるおそるお店の様子をうかがっていました。そしてタイヤキは信じられないものを目にしてしまいました。
なんとタイヤキの中に入れられているのは黒いかたまりではなく、黄色だの白色だの緑色のかたまりだったのです。タイヤキはショックで呆然としてしまって、ふらふらとすみっこの影のところに戻り身動きもせずじっとしてしていました。
それからというものの、タイヤキは常に不安な気持ちで過ごさなければいけませんでした。
はたして自分の中身は何なのか。黒なのか、黄なのか、白なのか、緑なのか。いや、それ以外の何かかもしれない。自分の中身に入っているものは嫌なものなのかもしれない。ひょっとしたら、なにも入っていないのかもしれない。
もうタイヤキはどうしようもない気持ちになって、自分のお腹を開いて中身を確かめようか、いっそお店の人に見つかって誰かに食べられたほうが気が楽なんじゃないかと考えましたが、そのどれもが恐ろしかったので、やっぱりどうしようもありませんでした。
タイヤキはずっと悩んでいましたが、あるとき、それなら自分はどういう中身なら満足するのだろうかと考えが浮かびました。初めて見た黒色か、ショックを受けた黄色などか、それとも空っぽか。
タイヤキは真剣に考えました。
しかし、答えは出ませんでした。
タイヤキは答えを見つけることができませんでしたが、少しだけ気持ちが楽になりました。
今でも自分の中身について考えることはありますが、そればかりではありません。
タイヤキはすみっこの影のところで暮らしています。そしてときどき、外の様子をうかがっています。