第二話
気がつくと私は眠りに堕ちていて、起きたころにはもう六時になっていた。外が薄暗い。
太陽に当たれない分、夜が来れば外に出ることが許可されている。日が沈めば、もう私の活動時間帯だ。心待ちにしたそのときを、私は目を閉じて感じる。
よいしょ、とベッドから降りて、病室を出る。個室は誰もいない分息苦しさもないけど、少し寂しい。かといって教室に戻りたくはないから、入院が長引けば、と思っていた。だけどどちらにしろ、私は太陽の出ているうちは外に出られない。
エレベーターに乗り、一階のボタンを押した。昨日は誰も乗っていなかったのに、今日は先客がいた。車椅子に乗った、色の白い痩せ細った少年だった。年恰好的に、きっと私と同じくらいだろう。長い漆黒の前髪から、茶色い目が見える。私を上目遣いに見つめてから、静かに目を伏せた。
「……」
沈黙が流れる。深い溜息を軽く閉じた唇の隙間から静かに吐き出して、私は壁にもたれた。
息苦しい。三十五人がぎゅうぎゅうに詰まった妙に滑稽な雰囲気の教室よりも、もっと。
短い音と共に、動きが止まった。私はすかさず扉を抉じ開ける様にしてエレベーターの外に出た。咳き込むと、少しだけ息が楽になった。
「ねえ」
びくん、と身体が硬直した。
慌てて振り返ると、そこにはさっきの車椅子の少年しかいなかった。
「……はい」
消え入りそうな声で返すと、少年は目を細めて微笑んだ。
「車椅子、押してもらえませんか」