第一話
締め切ったカーテンが暑苦しい。漆黒の布が光を遮って、十月とはいえども汗が止まらない。私は額から吹き出る汗をタオルで拭って、団扇代わりの下敷きをパタパタと動かして風を起こした。
入院生活の始まりは二日前、陽の当たる教室で貧血を起こして倒れ、起き上がらなかったために救急車で運ばれたから。それ以来、私は太陽の光を極端に避けなければいけなくなった。医者の説明は「重度な貧血」だったけど、私は知っている。こっそり、悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔をしたお母さんが教えてくれた。
――吸血鬼って、知ってますか?
私も聞いたときにはそれこそ体中の血が引いていきそうだったんだけど、吸血鬼のDNAを持って産まれてくるひとはいまでもいるらしい。ただごく少数で、見分けもほとんどつかないのが現状だと、私は検査入院初日の夜、お母さんに聞かされた。
八重歯が唇を閉じていても少しだけ覗くから、からかいの「吸血鬼」や「ヴァンパイア」なら何度も聞いた。それをお母さんに冗談交じりで話すとき、微妙に渋い表情をしていたような――いや、何も聞いていなければそんなこと思いもしなかっただろう。
とにかく私は吸血鬼の血を引いていて、その血が目覚めてしまった今、もう陽に当たって生活はできない。
あと二日、検査入院が残っている。
散歩はできないしカーテンも開けられないよなあ、とため息をついて、私は病室のベッドに潜った。