誇り高き仕事
鉄と油と火薬の匂いが充満する大きな工場。
数えきれないほど多くのの人間が働いているというこの工場が私の職場であり、家であり、故郷であった。
物心ついた頃には既にこの工場で暮らしており、仕事をしていた。
陽が昇ってから、日が暮れて外が完全に真っ暗になるまで働いた。同じ境遇の子供も沢山いたし、今の私のような大人も沢山いた。
三十年働いた私はようやく、出来あがった部品の組み立てという最終作業に関わるようになった。本当に感慨深い。
私達を雇うオーナーであり、私達が父と慕う男は私達に教えてくれた。
「君達は知らないだろうが『世界』というのはここよりも、ずっとずっと、それこそ想像もつかないほど広い。そして、それだけ多くの人間が暮らしている。だが……ここの外の『世界』は残念ながら大変危険な場所なのだ。しかし、君達はこの安全な楽園にいながら『世界』の平和の為に働けているのだ。誇りに思ってくれ、君達は英雄だ!」
私はその言葉を聞いて、自分を大変に誇らしく思った。
周りの者達も同じような顔をしていた。きっと皆、私と同じようにこの太陽の如く輝かしい誇りを胸中で燃え上がらせている事だろう。
私達が世界を平和へと導いているのだ。ここよりも、ずっとずっと広く、多くの人が暮らす外の『世界』を。
それからも私はその誇りを持ってこの仕事に邁進した。
そんなある日、同僚の男がオーナーの話を少しだけ聞いたと、同室の皆に話した。それは私達が作っている物の名前だった。
「ふむ、あんなに大きな機械だ。きっと沢山の人を病から救ったりしているのだろう」
私が頭のなかに浮かんだ案を言うと、また別の男がこう言う。
「いいや、きっと外の世界には私達の天敵が沢山いて、それから人を守る為にあるんじゃないか?」
続いて、違う男が自分の考えを言い、それを否定して自分の考えを述べる別の男。そうして私達は夜更けまでその想像話で盛り上がった。
私は眠りに落ちるその瞬間までその言葉を頭のなかで繰り返していた。
ああ、なんという素晴らしい響きを持つ言葉なのだろう。『平和』という言葉に似たそれは天使の囁きのように美しかった。
私達が作るそれはいまも世界を平和にしているのだろう。
その――――――――『兵器』という物は。