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召喚少女 ~犬探し奇譚~  作者: 神籠石
4/8

幻獣召喚!



 公園の入口を見渡せる位置にあるベンチにルーシーとテレンスは腰を下ろし、ジュウベエは腕を組んで立ったままテレンスの話に耳を傾けていた。


「まずは最初に何があったか話してくれる?」


 ルーシーはなるべく優しい口調を意識してテレンスに話しかける。


「うん……昨日の夜のことなんだけど、僕とルルはいつも二階にある僕の部屋で寝てるんだ。僕はベッドで、ルルは犬用のベッド。昨日もそうやっていつものように寝てたんだ」


 テレンスは拳を膝の上にのせ、ぎゅっと握りしめていた。


「でも、いきなりルルが窓の外に向かって吠え始めた。ルルの声で僕も起きたんだけど、ずっと窓の外に向かって吠えてた」

「それって、だいたい何時くらいの話なのかな?」

「時間は、時計を見てなかったからわからないけど、他の家の灯りはほとんど見えなかった」


 だいたい深夜以降だろうか。その時間になると歓楽街を除いて多くの家が消灯となる。


「それで、誰かいるのかと思ってこっそりカーテンの隙間から外を見たら、赤い小さな光が二つ見えたんだ。なんだろうと思っているうちに光は四つに増えた」

「その、赤い光があった場所ってテレンスくんのお家の敷地内?」

「えっと、僕の家の裏って林になってて、その入り口近くだったと思う」

「ありがとう、続けて」

「うん。で、ルルはどうやらその光に向かって吠えているようなんだ。僕もその光が何か気になって見てたら、その赤い光がまた何個か増えて、こっちに向かって動いたんだ」


 赤い光。

 魔光と呼ばれる類の光にはいくつかの色があり、その中でも赤はよく見られる色の一つだった。


「その時に、月の光で見えた。大きな犬がこっちを見てた。赤い光の正体は犬の目だったんだ。……僕は怖くなってカーテンを閉めてベッドに潜り込んだけどルルはまだ吠えてた。だけど、いつの間にか吠えるのをやめて朝には自分のベッドで寝てたみたい」


 テレンスはそう一気に話し終えると震える手でズボンの裾を握りしめた。


「あれは、あの犬たちはルルを狙ってるんだ! そうだ、そうに違いない。どうしよう、どうにかしてルルを守らないと……」


 興奮した様子のテレンスに何と声をかけるべきかとルーシーは思考を働かせる。赤い目の犬に対する恐怖心はあるようだが、それと同じくらい飼い犬を守りたいという思いもあるようだ。

 ……危険だ、とルーシーは思う。飼い犬の状態もそうだが、飼い主であるテレンス自身も危ない状態にある。今はまだ恐怖心の方が上回っているが、そのうち守りたい感情の方が逆転してしまうだろう。そうなったら守ることが何よりの優先事項となり、どういう行動に出るのかわからない。現在は大丈夫だと思うが心神喪失の状態になると抑制が効かなり何をするかわからないのだ。


「テレンスくん、大丈夫だから、落ち着い――!」


 頭を抱えてパニックになりかけているテレンスをなだめようとしたところで、空気を破裂させるような乾いた音が響いた。何事だ、と他の来園者たちもこちらに顔を向けている。そんな状況の中、音の犯人は澄ました顔で言葉を発していた。


「秘儀・猫だまし」


 目をぱちくりと開いた呆けた顔でテレンスが音の犯人であるジュウベエを見る。彼はテレンスの眼前で両手を打ち鳴らした姿勢のまま言葉を続けていた。それはどこかテレンスの反応を楽しんでいるようでもあった。


「テレンス、落ち着け。飼い主であるお主が冷静でなくてどうする」


 ジュウベエは手を反対側の袖の中に差し込むように入れ腕を組む。


「『平常心をもって一切の事をなす人、これを名人というなり』」


 落ち着いた雰囲気でそう述べるが、二人は何の意味かわからなかった。


「えっと、どういう意味でしょうか?」


 なぜか敬語で尋ねるルーシー。

 ジュウベエが胸を張って答えた。

 

「柳生新陰流師範にして将軍家の剣術指南役である柳生宗矩公の言葉でござる」


 よくはわからない単語ばかりだったがどうやら剣術関係の偉い人の言葉らしい。

 一度自分の刀に目を落としてからジュウベエは解説を続ける。


「名人と呼ばれる人は平常心をもって事にあたる。心が落ち着かないまま何かを行おうとしても失敗することを知っているからだ、という意味の言葉でござる」


 そこで区切り、ジュウベエは視線をルーシーから猫だましを受けて呆けたままののテレンスに移した。テレンスの口は開いたままであった。


「今のお主にはぴったりの言葉であろう? まずは心を落ち着かせてから、どうするか考えろ。でないと……」


 ジュウベエが珍しく言葉にためを作る。その作られた間に、テレンスの注意と関心を必要以上に引きつけられていた。


「――大切なものを失うぞ」


 その言葉の意味を理解したのかテレンスは青ざめたように顔色を変えた。平静を保つように無理やり心を落ち着けているのかもしれない。何せ大切なものを失う、と言われたのだ。これで暴走する可能性はわずかに低まったことだろう。


「ルーシー殿」

「あっ、はい」


 真剣な声音で話しかけられ、ルーシーは思わず丁寧に答える。まるで先生と生徒、上司と部下のような感じだ。


「今夜はテレンスの家を見張ろうと思うでござる」

「えっ……」


 ジュウベエから発せられた思わぬ提案にルーシーは驚きを隠せなかった。どうしてそこまでするのだろう、という驚きが喉から飛び出しそうになる。


「正直に言えば、これが魔術がらみのものだった場合、拙者にできることなど何も無いに等しいでござる。だがそれでも、何もしないよりはマシでござろう。もちろん、何も起きなければそれに越したことはないでござるが……ただ」


 ジュウベエは申し訳なさそうな顔になり、ルーシーに頭を下げる。


「ルーシー殿には苦労をかけてしまうが……」

「あ、そんな、やめて、頭上げて」


 律儀に頭を下げる彼の所作がどこか他人行儀のように感じられ、ルーシーは面食らってしまった。彼に言わせれば「親しき仲にも礼儀であり」と言ったところだろうが、自分にもそれを向けられるのはどこか寂しい感じがするのだ。

 ……それに。

 ルーシーはばつが悪そうな顔になる。

 

「でもね、その案は採用できないかな……」

「……どうしてでござるか?」


 どこか不服そうにジュウベエが問う。最善とまでは言わないが最良の案であるぐらいには思っていたのだろう。


「赤い目の犬たちがいつ来るかわからない以上、これは短期戦というよりは持久戦と考えるべきだから」


 いつの間にか、ルーシーの顔から感情が消えていた。魔術師としてあくまで冷静に淡々と告げる。


「しかし、拙者なら二、三日寝ずに見張ることも可能でござる」

「うん、じゃあ、四日目に現れたら?」

「それは……」


 言葉に詰まり、視線を逸らす彼を見やりながらルーシーは思考を続ける。

 彼なら徹夜四日目でも任を果たせるかもしれない。しかし、能力は本調子より下がるのは間違いない。それでは駄目なのだ。過度の睡眠不足は集中力の低下を招く。


「あのね、ジュウベエくん」


 ルーシーの呼びかけにジュウベエは顔をこちらに向ける。


「私は、自分に誰かが救えるとか、自分ににできないことないなんてこれっぽっちも思っていないけど、誰かを救いたいとか、自分にできることをしたいという気持ちは持ってるつもりなんだよ」


 それでもいつも思う。

 こんな自分が誰かの役に立てるのか。こんな自分に何ができるのか。考えずにはいられなくなる。ダメダメな自分をもっと嫌いそうになる。

 

「だから、もう少し私を頼ってほしいなって」


 苦笑し、ルーシーは胸の前で手を握る。


「ほんとは、もっとしっかりしたところを見せれたらいいんだけどね」


 その言葉に、果たしてジュウベエは、


「その通りでござる。普段からもっとしっかりしてほしいでござる」

「うっ」


 まさかの肯定にルーシーは肩を落としそうになった。


「しかし、その謙虚さこそがルーシー殿の美徳でござろう」


 ジュウベエはくすりと笑う。


「では、あとは任せたでござる」

「……うん」


 落として持ち上げられたところで、ルーシーは息を吸って吐き、気持ちを切り替える。

 目を閉じ、両手を組んで集中。

 魂から魔力を引っ張り出し、体中にめぐらせる。激しい流れ、緩やかな流れ。すべてを均質に整える。

 心に門をイメージ。石造りの武骨な門だ。それが七つ。自分を取り巻くように囲んでいる。余計な装飾は何もない。鉄製の扉。その中の一つをこちらから押し開く。

 闇。扉の向こうにあるのは一寸先も見えない闇の世界だ。

 しかし、何かがいるのがわかる。

 こちらを見ている。

 凛々しさに身を置き、彼女は告げる。


 ――いにしえの約定により、そなたたち異界の住人の力を求む。

 ――契約に応じたならば、その神秘の姿を我に見せよ。


 そして、一転して彼女は優しい笑みを浮かべると穏やかに言う。


 ――おいで。


 ルーシーの呼びかけに、その何かは門をくぐった。


「来たれ! 風の担い手よ!」


 ルーシーの足元の前方に魔法陣が浮かび、赤色の光が線をなぞっていく。ほとばしる光が描くのは六芒星とその周りを回る魔法円。円は二重になっており、線と線の間には古代の表音文字が描かれている。

 ルーシーは見開くように目を開けた。


「幻獣召喚!」


 風が巻きあがり、衣服をはためかせる。

 光と風の奔流とともに異形の存在が姿を現した。



「キキィッ」



 そこに現れたのは白い体毛に覆われた体長1メートルくらいの猿だ。細長い尻尾の先が毛筆のようになっており、陽気そうな声を出して自分の頭を掻いている。


「さすがルーシー殿! 犬だけに犬猿の仲ということで猿でござるな!」

「犬猿の仲? 何それ初めて聞いた」

「……ただの偶然でござったか」


 不思議そうな顔をするルーシーをよそにテレンスがまじまじと猿を見ていた。


「すごい、これが召喚獣……初めて見た! お姉さん、召喚師だったんだね」

「えへへ、改めまして、ザラスシュトラ魔術学院召喚術科1年生のルーシー・ローレルです」

「そういえば、自己紹介がまだでござったな。拙者はジュウベエ。ただの武士でござる」


 武士という言葉にテレンスが首を傾げるがこれはいつものことだから仕方がない。テレンスはルーシーに対し、尊敬にも似たまなざしを向ける。

 そんな目で見られて悪い気はしないが、だからといって得意げになることなくルーシーは猿の召喚獣についの説明を行う。


「風の幻獣・ハマヌーンだよ。風の属性を持つ幻獣は鳥型が多いんだけど、この子は数少ない風属性の哺乳類」


 ルーシーがハマヌーンについて解説するが、当の本人であるハマヌーンは辺りをきょろきょろと見回すとテレンスに向かって飛びかかっていった。


「うわっ!」

「ハマヌーン!」


 ルーシーが叱咤するように呼び止める。テレンスは尻もちを着いていたが、噛まれたり引っ掻かれたりした様子はなかった。


「あ、帽子が……」


 テレンスが頭に手を当てるとそこには被っていたはずの帽子がない。どこだと視線をさまよわせると、あった。


「ウキッキィ~」


 鼻歌のような声を出しながら飛び跳ねるハマヌーン。その頭にテレンスの帽子がおさまっていた。どうやら帽子を手に入れてご機嫌のようである。


「僕の帽子……」

「ごっごめんね、テレンスくん」


 飼い主ならぬ召喚主としてルーシーはテレンスに謝罪して、膝を折り腰を曲げてハマヌーンの方を向く。


「ハマヌーン、帽子をテレンスくんに返して」

「ウキッ?」

「そう、テレンスくんに、帽子を、返すの」

「キキッ?」

「そう、帽子、返す」


 片言で話しかけると意味が伝わったのか、ハマヌーンはトコトコとルーシーに近づき、


「ウキッ」

「えっ」


 彼女の頭に手をのせた。


「こっこれは……」


 ジュウベエにしては珍しいうろたえた様子で彼は言葉をつむぐ。


「猿回しの十八番『反省』……」

「反省……そっか、わかってくれたんだね!」


 ……馬鹿にされているだけのような気もするけど。

 されど人と猿。厳密には召喚主と召喚獣なのだが、やはり話せばわかりあえる。召喚師として上手く制御できていないだけでもあるが、それでも心を通わせることができてルーシーは嬉しかった。喜びを胸に顔を輝かせて立ち上がる。


「さっ、テレンスくんに帽子を返して」


 ルーシーの言葉通りにハマヌーンはテレンスに向かって一歩を踏み出す。だが、いきなり尻尾を下から上へ軽く振り上げた。その反動で風が吹き、彼女のスカートがふわりとめくれ上がる。


「きゃあああああああああ!」

「ぬおっ!」


 慌ててスカートを抑えるルーシーの顔が真っ赤に染まり、彼女は思わずその場に座り込んだ。一方、ジュウベエは思わずテレンスの両目をふさぐが、自身の鼻から赤い水滴がぽつりと垂れていた。


「だっ大丈夫でござるか? ルーシー殿!」

「ううっううぅ……召喚獣にスカートめくられるなんて、召喚師失格だよ、ダメダメのへっぽこ召喚師だよ……ううっ」

「いかん! ルーシー殿が『ねがてぃぶもーど』に! テレンス! 何でもいいからルーシー殿をほめまくれ!」

「うっうん、わかった」

 

 ジュウベエがテレンスの目隠しにしていた両手を放し、まだ事態がよく飲み込めていないテレンスと一緒に賛辞の言葉を送る。


「ルーシー殿はへっぽこでもダメダメでもないでござる!」

「そうだよ! さっきの召喚、すごくかっこよかった!」

「うむ、才能ある魔術師で召喚師でござる!」

「僕、感動しちゃった!」

「……そっそうかな?」


 ノってきたルーシーに二人はアイコンタクトで「もう少し」と意思を交し合う。


「お姉さんの召喚術、僕びっくりしたよ!」

「ああ、いろんな意味で刺激的でござった!」

「ちょっそれだと、わっ私の下着が刺激的みたいに聞こえるんだけど!」

「いや、そういうわけでもなかったでござるが――」

「やめてぇえ、私の下着について触れないでぇえええ!」

「ふっ触れてなどござらん! ただ――」

「きゃー!」


 わーわー叫ぶルーシにそれをなだめるジュウベエとテレンス少年。そんな三人を眺めながらハマヌーンは自分のイタズラが成功して嬉しいのか手を叩いてけらけら笑う。


「ウキッキッキッ、ウキッキッキッキッキッ――キキィッ!」


 だが、突然頭を鷲掴みにされハマヌーンは金切り声のような驚きの声を上げた。


「ハマヌーンよ、先ほどから少々イタズラが過ぎるようだが?」


 殺気を含ませた声にハマヌーンが目を見開けば、ジュウベエが鬼のような面で見下ろしていた。獣としての本能か、鬼気迫る表情にハマヌーンはびくびくと身体を震わせる。


「ウキッキッ……」

「婦女子を辱しめるとは猿の風上にも置けぬ助平猿め! そこに直れ! その腐った性根を叩き直してくれる!」

「キキィ……」


 ヤバイ、逆らったら殺される……。そんな気持ちが透け出るかのようにハマヌーンは冷や汗を流しながら必死に首を振ってみせた。その姿の変わりように呆れながらもジュウベエは睨みながら問いかける。


「反省してるのか?」

「ウキッ!」

「反省なら猿でもできるというが、心から反省してるのか? よもや形だけではあるまいな?」

「ウキッ、ウキッ!」

「もう悪さはしないな?」

「ウキッ!」

「……というわけでルーシー殿。こやつも充分反省しているようでござる。勘弁してやってほしいでござる」


 ハマヌーンを鷲掴みにしていた手を放し、ジュウベエはルーシーの方に向き直る。

 召喚主でもないのにどうして会話できるんだろう……とルーシーは不思議に思いつつも、自分が召喚した猿と向かい合った。


「…………」

「…………」


 互いに押し黙っていた一人と一匹だが、やがてルーシーから口を開いた。膝を曲げ、ハマヌーンと目線を合わせる。

 手の平を見せ、


「反省」

「ウキッ」


 こうして一組の主従は分かり合うことができたのだった。 

 そして時刻は午前0時。ルーシーはすでに自宅のベッドの中に入っていた。仰向けで天井を見るが、視界はテレンスの住むヘヴィサイド家の裏側、草木が茂る林と裏庭の境を木の上から見た映像を映している。ハマヌーンの視界だ。天井が映る自分の視界と切り替えたりしながら今日の事を思い出す。

 今から一時間前のへヴィサイド家の前。あれからテレンスの案内で家の位置を確認し、真夜中になってからへヴィサイド家の見張りを行うことにしたのだった。ルーシーの魔力の消費を抑えるため、ハマヌーンを一度あちらに還してからまた呼び出していた。


『ハマヌーン。いい? 赤い目の犬が来たら私に知らせるんだよ?』

『ウキッ』

『あと、一応ニオイで気付かれないように風上にいること』

『ウキッ』


 了解を示すようにハマヌーンが頷きを行う。基本的なコミュニケーションは昼の間に終えており、意思疎通は充分取れるようになっていた。


『高位の召喚師なら完全に従わせることができるんだけどね……』


 まだ日中のハプニングを引きずっているらしい。ルーシーは人生に疲れた老人のようにぼやいた。

 

『感覚の共有はできたけど身体の支配は無理だったし……』


 ルーシーの脳内に学院での召喚術講義の内容が再生された。

 先生が言うには、召喚師による召喚獣の使役レベルは三段階に分かれる。命令を聞かせるレベル1。視覚や聴覚などの感覚を共有するレベル2。身体を支配するレベル3。レベルが上がるごとに高度な技術が必要とされるが、レベルが高いことが必ずしもいいこととは限らない。身体を支配するということは肉体と感覚の支配であり、つまりは痛覚も共有してしまうからである。


『しかし、今回はあくまで見張りなのだからそう悩むことはないと思うでござる』


 ジュウベエの言うことも最もだ。戦闘はなるべく避けたいし、犬たちがどこから来たのか調べてみたい。召喚獣による見張り、そして追跡。それが今回の任務である。

 魔術師としての頭で考えつつ、戦闘にならないよう祈る心を認識する。魔術師としての自分、ただの少女としての自分。どちらも同じ自分だ。……では、自分らしさって何だろう。

 視界を再び自分のものに戻し、益体のない思考を強制終了させるためにルーシーは目を開ける。そこには外の光景ではなく見慣れた天井がある。それにしても、多発する飼い犬の失踪と赤い目の犬たち。これらはどのようにつながっているのだろうか。

 この二つの件に関してルーシーはすでに関連ありと考えていた。根拠はない。単なる魔術師としての勘だ。もしかしたらあの赤い目の集団の中に行方不明になった飼い犬がいるかもしれない。なら行方不明の飼い犬リストを作っておく必要も出てくるだろう。一度まとめておいて損は無い。それから……。


「…………」


 ……もう寝よう。犬たちが現れたらハマヌーンが知らせてくれることになっている。


「おやすみなさい」


 誰ともなしにルーシーは呟くと、彼女の意識はすぐに眠りの底へと落ちていくのだった。




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