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ひとしきり泣いた後、どこで止めればよいものか分からず、ミリアはぐずぐずと鼻を鳴らし続けた。声を上げて子どもの様に泣くなんて、もうどれだけぶりのことか分からないほどに久しぶりで、どうやって終わっていたかも忘れているほどだった。
いきなり泣き出したミリアを慰める為ににょろも、ルア達も必死で周りをうろうろしていてとても申し訳ない気持ちになる。
ルアが区切りをつけるように「落ち着いた?」と問いかけてきて、ぐちゃぐちゃになった頬を拭ってくれる。ミリアはこくんとうなづいて大きく息をついた。ひどく体がだるい。泣くとはこんなに体力を使うことだったのか、と発見する。
何度かおまけで鼻を鳴らして、ミリアは小さくつぶやく。
「ごめんなさい」
ルアがきょとんとしてミリアの顔を覗き込んでくる。ルアの真っ白な服と頭髪がまぶしいなぁ、と思いながら、ミリアはもう一度謝罪の言葉をつぶやいた。
「ごめんなさい」
「どうして、あやまるの? 何もしていないのに」
「あたし。うるさかった。困った、でしょ」
おずおずとルアの顔を窺うも、ルアはやっぱり目をパッチリ開いて戸惑った顔をしていたため、ミリアはいたたまれなくなって視線を足下に落とす。しばらく誰も声を発さず、沈黙が続いたが、そのうちルアがぐふ、と変な声を出した。
「な、何……?」
「え、いや、あの、ちょっと……ぶ、く」
「怒った、怒って、る?」
「あーいや、怒って、ないよ。あのね、にょろは面白いね?」
オモシロイ、と言われたはいいが、いまひとつ意味が分からずリアはにょろを見やる。楽しい、嬉しいに近い意味だったとは思うが、まさかにょろに対してそんなことを言う人間がいることも信じられなかったし、にょろの何がオモシロイのかもわからない。
ミリアがにょろを見やると、にょろも同様にリアに顔(?)を向けていた。ミリアがことんと首をかしげるとやはりにょろもふにゃんと傾ぐ。それを見てか、ルアはいよいよ声を上げて笑い始めた。
「うははは! なんだそれ! かわいい!」
「えっ」
「仲良しなんだねえ。ミリアとにょろは、仲良しなんだね!」
「あっあっ」
「ひー、面白い面白い。そんなの初めて見たー!」
「えっと……」
だんだん語調が激しく、早くなっていって、ミリアは十分にルアの言葉を聞き取れなくなってきた。それでもルアは楽しそうに笑っているため、どうしていいか分からずミリアはふと横にいたべーちゃんに視線を送った。
べーちゃんは眉を寄せてルアを観察していたが、ミリアが困惑していることに気付くと、すぐに意思をくみ取ってルアの方へ近づいて行った。
「おいちょっと」
「ぐへ」
べーちゃんがばしりと肩をはたくと、ルアはまた奇妙な声を上げて沈黙した。
「そんなことしてる場合じゃないだろ」
「……」
「ここって立ち入り禁止区域だよな。僕らは許可とってないよな?」
「あー」
べーちゃんがミリアにはわからない難しい言葉でルアを説得しているのを、ミリアは茫洋と見つめていた。何度か首を縦に振って、ルアはミリアへと向きなおった。
怒っている風ではないが、目も口も笑わずに真剣な表情をしているルアを、すこしだけ怖いと思う。ミリアにはこれから何が起こるか、全く予想がつかなかった。
「さて、この後なんだけど……。ミリアがどうしたいか聞いてもいいかな」
「あたし、ドウシタイ?」
「うーんと、どこに行きたい?」
どうしても、質問の意味がミリアにはわからなかった。出来るならば今の一連の出来事すべてをなかったことにして、にょろと山に帰れればそれで満足なのである。どこに行きたい、と言われたのも、それを彼らに伝える必要があるのも分からない、とミリアは再び首を傾げる。
要領を得ないミリアに痺れを切らして、べーちゃんがリアの腕をつかんだ。間髪入れずに触手がべーちゃんの腕に巻きつくが、べーちゃんは意に介さずに口を開いた。
「とりあえず、つれていけばいいんでない?」
「うーん……」
「僕らの目的はこいつみたいなもんなんだから。こんなんとは思ってなかったけど」
「でもねぇ……」
「時間もないぞ」
ミリアは唐突に雲行きが怪しくなった、と青ざめる。「連れて行く」「目的」という単語が耳にやけに引っかかる。やっぱり、やっぱりこの人間たちも警吏みたいに自分をどこかへ連れて行って、自分は二度とここに戻ってこれないんじゃないか。
あわてた様子でにょろがミリアとべーちゃんを引きはがす。
「あ、あたし、いかない! やだ!」
ミリアは一瞬で3人から距離をとって、身を絞るように叫んだ。
日があいてしまいました