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触手と少女  作者: イベリコ豚
はじまり
2/13

しょくしゅちゃんの名前を変えました

かわいい? といいですね

「もう、おなかはいっぱい」



 年のころ13,4の少女が口にしたのは、舌ったらずな満足の声だった。

 少し甘えた調子の混ざるその台詞が向けられたのは両親でも、年の近い少年でもなく、これまた満足げに上下する何やらのっぺりしたものだった。



「にょろ。もういいよ」



 少女の囁きに応えて、その背中からのびていた数本の触手はつるりと姿を消した。

 少女の足元には果汁の残った木の実の皮が散乱しており、少女の口元は同じ色の果汁で汚れていた。誰がどう見ても食事の後である。

 姿を消したかと思った触手がふいに一本だけにょろりと伸びて少女の口元を拭う。


 ただ、その木の実は背の高い木のものだった。少女の周りの木だけでも木の実が伺えるのは、少女の身長の倍以上の所に成っているものばかり。

 確かに美味しいし栄養があることに関しては申し分ないが、通常なら1つ得るのにも多大な労力が必要そうだ。



 しかし彼女には頼れる相棒が居た。

 彼女の体から生える触手は文字通り彼女の手足となって蠢き、遥か頭上にある木の実を次々に採取したのである。



 10年前、彼女が人間界から放逐された原因である触手が、彼女の生命活動の根底となり、それを助けているのだった。


 ひとりぼっちになった当初こそ自らの体に生えるそれらを厭い、気持ち悪がった少女だったが、何だかその触手達が必死で自分のご機嫌をとり、食べ物を与えようとしてくれるのを見て、徐々に安心感を得る。

 その後も触手は少女を守り、育てるために甲斐甲斐しく働き、いつしか少女は紛れもなく意思をもつその触手に名前をつけていた。


 

 少女にとって触手は無二の親友であり、保護者であり、安全基地であり、最も協力な武器でもあった。既に不自由な生活はなれっこになったし、にょろがいれば生きていくうえでは問題ない。そこに意味は見出せないけれど、少女はそこそこの生活を送っていた。



 ただひとつ、にょろは言葉が喋れない、というのが寂しいところだった。

 少女はかつて、ひと時たりとも放置されていなかった。常に誰かが語りかけ、内容は分からずともお話されている感覚はあった。少女は物言わぬにょろの体を撫でながらふと、その頃を思い出しかける時があった。そんなときはいつでも、他ならぬにょろがぱたぱたと体を振って慰めるのだが。




 にょろは、非力な少女の代わりに簡単な狩りすら行った。

 音も無く宙を滑る触手はそこらの野生生物よりよっぽど気配が無く、小動物程度であったら鳴き声をあげる暇さえなく首を締め上げることができる。少女がきちんとたんぱく源を取れるように、とにょろはやはり甲斐甲斐しく面倒を見てやるのだった。


 夜、眠るときにはボディガードも努めるのがにょろである。

 目も鼻も無いのに、触手は鋭いなんらかの感覚機関を持ち合わせているようで、木の上に登って眠る、という知恵の無かった少女を毎晩毎晩見守って蠢いていた。




 そのおかげで少女は10年という長い間、誰と関わることもなく野生に溶け込んで生き延びることができた。

 数度人里に下りて助けを請おうとしたものの、にょろと共存しながらのそれは酷く難しく、その度に怯えた目と振り回される農具武具に追い立てられて山へ閉じこもった。にょろは少女の体から切り離せるものではなく、幼かった少女ににょろの存在を完璧に隠し通すことなど不可能だったのだ。



 少女はくちくなった腹を一撫ですると、するすると木に登り始める。にょろは少女の腕の一本か足の一本の様に自然にその動きを助け、少女はあっという間に大きな枝の張り出すところまで登りつめた。



 もうすぐ日が落ちる。



 触手に支えられては居るものの、特段戦闘力が高い訳ではない少女は、夜に行動しない。人間の目では夜は動き辛いのだ。

 枝から茂る葉をましましと平らかにし、にょろを枝に巻きつけて命綱にする。



 まどろみながら少女は、明日についての計画を練っていた。

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