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ミリアがルアの家で暮らし始めてから数日がたった。
ミリアには特に行動を規制されることもなく、清潔な寝床と美味しい食事が無償で与え続けられた。ルアの、ひいてはルアの家の財力だ。
して。
目下ミリアの困りごとは、この与えられ続けるばかりの生活で自分がすることがない、ということだった。
頼りのルアといえば毎日忙しそうにどこへやら出かけていっては夕方まで帰ってこない。着いて行こうとするとやんわりと押し戻される。聞けば「仕事が溜まっている」とのことだったが、ミリアには仕事とは何のことかさっぱり分からないのだった。
そもそも良く分かってはいなかったのだが、こうなってしまってはいよいよ自分が何をしに、何のためにルアについてきたのかが分からなくなってしまう。
数日まんじりとせず過ごしていたミリアが思いついたことが「言葉」だった。
たまにアルヒやべーちゃんの買い物についていっても、早口でまくし立てる店の人の言っていることは分からない。
町のそこかしこにある文字が全く読めない。
相手がゆっくりと話してくれて聞き取れたとしても、話の中に一個か二個は必ず分からない言葉が混じっている。
こんな状態でまともにルア達と生活していくことは困難だ。「言葉」を学ばなくては。
ミリアの決意してからの行動は早かった。
その日の夕方、疲れきって帰ってきたルアを捕まえて言い募る。
「ルア、お願いがあるんだけど」
「え、うん。先ご飯たべ」
「だめ! 忘れちゃうから!」
「ハイ」
「あたし、皆が使ってる言葉、もっと知りたい。喋ってるの聞いて覚えようとしたけど、だめ。教えてもらわなきゃだめみたい。教えて!」
必死で言葉を選んで懇願するミリアに、そういえばそうだった、とルアは頭を抱えた。
十分に会話できる言語能力が育っていないのに衣食住だけ与えて放置したのは非常によくない。勝手に連れて来た癖に配慮が足りなかった、という意味をこめて、とりあえずルアは謝罪する。
「あ~、ごめんね」
「えっ、だめ?」
「ちがうちがう。ちゃんと教えてあげれてばよかったね。ごめんね」
「謝るの、ちがうよ。あたしが教えて欲しいっていってるんだから」
「オーケーわかった。でも残念ながら俺はちょっと忙しい」
雲行きの怪しさにミリアの眉が下がる。
「べーちゃんに頼もう! そうしよう!」
朗らかな提案に反して、ミリアの表情は更に曇った。
「あ、あれ・・・もしかして嫌?」
「ルアがいい」
「うーーーん。それは本当に嬉しいんだけど、こっちもまだ落ち着かなくってね・・・」
「じゃあ、アルヒは?」
「アルヒー、には別のことお願いしてるんだよなー・・・ははは」
「・・・むー」
「ち、ちなみに訊くけどなんかべーちゃんに嫌なことされた?」
「意地悪言うのと、間違えたことしたら叩く。別に痛くないけど、むかつく」
自分がされた嫌なことを挙げているのに、ミリアは少し満足そうだった。ルアへの報告でべーちゃんが怒られてしまえば良い、と考えたからである。
「はは・・・意地悪言うのはねー。多分誰にでもだから許してあげて。そういう子なんだよ。でも叩くのはだめだね。怒っておくからね」
「うん。ルアはいつまで忙しいの?」
「い、つまでかなーー」
「わからないくらい?」
「そうだねぇ。ごめんね」
「じゃあ、べーちゃんで我慢してる。はやくね」
「ん。我慢してねー。俺も仕事我慢するから!」
ルアが我慢しなくてはいけないほど、「仕事」は嫌なものなのだな、とミリアは思う。きっとべーちゃんの様に意地悪なんだ。
「ルア、仕事がんばって!」
「オーケー! そして俺ははやくご飯が食べたい!」
「あ、ごめんなさい」
とっぷりと暮れた外を見て、ミリアは長い間ルアを拘束してしまっていたことに気付く。
へろへろとお腹を押さえるルアと連れ立って、ミリアは夕食へと向かった。
ぺらっぺらになるまでを一区切りにしたいです
しばらくは明るい感じで




