第2話オンリーユウ
誕生日を迎えた朝。
私は泣きながら、いつしか眠ってしまっていた。
泣きすぎて顔が腫れている。
時計の針は6時を指している。
何て最悪な誕生日の迎え方だろう、私はしばらくボーッとしていた。
まるでエネルギーが空になったみたいだ。
「・・・・・朝か。」
そう呟いた私の視線におにぎりが飛込んだ。
「おにぎり?」
私の机にちょこんと並んでいる2つのおにぎりたち。その時お腹が、
「ぐぅぅ〜っ。」
と鳴った。私はお腹が空いて起きたのか?昨日帰ってすぐ自分の部屋に入ってしまったので、晩御飯は食べなかった。だからお腹はペコペコ状態。
「緊急指令!至急、おにぎりを食べよ!」
と私の脳は体に電気信号を送った。
私の体は素直に命令に従い、おにぎりをガツッと掴んで口よ開けと言わんばかりに押し込む。
おにぎりの味を確かめる暇はない。
そんなにお腹が空いていたのかと思うぐらいの速さでおにぎりを2つ食べ終えた。
「おいしかった。」
そんな言葉がぽろっとこぼれた。
そして次の瞬間、母を思った。
このおにぎりは母からの贈り物だ。
そう気付くと、いても立ってもいられず台所へ急発信。
エネルギーを蓄えた私の体は勢い良く扉を開け、台所へ続く道を走る。
まるで動物。そして台所に着くと母が、なんと、朝御飯の支度をしていた!
「はぁ、はぁっ、おっお母さん?」
「あぁ、おはよう。何息切らしてんの。」
あんたのせいだよ!と思ったが口にしない。
「はぁ、あっあのさ、おにぎり、ありがとう。」
「リカすぐ部屋に行っちゃったから、お腹減らしてるだろうって思ったのよ。だからおにぎりこしらえてみたわ。」
奇跡だ。
「アタシ寝てた?」
「グーグー寝てた。疲れてたんでしょ。」
そうだよ、物凄く疲れて疲れて、空になってたよ。
「うん。」
「食べたの?」
おいしかったよ、お母さん。
「食べた。」
「そう。久しぶりにおにぎり握ったわ。もう朝御飯出来るから。」
すっごく、不格好なおにぎりだったけど本当においしかったよ。
「・・・・・・。」
なんだろう?体全体が満たされるようなこの感じ。
お母さんがフライパンを握ってるから?違う、私が久しぶりに朝からおにぎり食べたから?違う。私が空になったから?違う。
答えは、全部だ。
久しぶりに満ち足りたこの感じ、お父さんがまだいた時以来だ。
そして、お母さんが料理を始めたのも、お父さんがいた時以来だ。
まるでお父さんが生きていて、これから3人で食事を取るみたい。
けれど、私は何も聞けなかった。
料理を始めた理由も父との思い出も。
私は母が怖かった。
また母が父を亡くした時の様になってしまうんじゃないかと、毎日びくびくしていた。
母は父が亡くなってから1年間は、何もせず、話もせず、ただ黙って父の遺影を見ては泣いていた。
だから私はいつでも、母が消えてしまうんじゃないか、死ぬんじゃないか、という不安に絡まれた。
けれど、祖母から精神科に通わせられ、母が毎日日記を付けるようになってから、徐々に、ほんの少しずつ、母は変わっていった。
ただし、父がいた時の以前の母とは決定的に何かが違っていた。私自身も、だ。
お父さんとお母さんと私の構図。
それはささやかな幸せの構図だった。
私は父が亡くなった時程悲しかったことはない。
が、それ以上に母の姿を見て私は余計、父があけた穴の大きさに気付き茫然とした。
ご観覧ありがとうございました。次はもう少し主人公の過去を掘り下げてみます。