何も悪い事してないのに巻き込まれた2
「別に彼を騙そうとした訳じゃないわ。仕事で色々と融通してもらったから、食事の
誘いとか断りずらかったのよ。贈り物は、まあ、高価だったんだけど、私個人の魔法研究には結構
重要な物で、手に入りずらいから受け取っちゃったの。
それもあって彼の好意を無碍に出来なくて。で、ついさっき貴方に借りたお金を返すために
宿に向おうとしたら、突然血相を変えた彼が出てきて、
僕というものがありながら一人で酒場に行くな、ですって。
勘違いも甚だしいから、あなたはいい人だけど、男として見れないって言ったんだけどね。
後は貴方も知っての通りよ。と、ここが私の宿よ。すぐにお金持ってくるからここで待ってて」
そう言って彼女、エーリは宿の中に入っていった。俺は入口の脇に背中を預け、ため息をつく。
エーリはかなり珍しいフリーの魔術師だ。エスケンス王国軍が戦略用大規模魔法の研究を
ここ、オズマンで行っており、その研究の助手として短期間雇われていたらしい。
俺に決闘を挑んできたおっさんの名前はオド。
エスケンス王国軍の魔法部隊の隊員であり、今回の研究の責任者をしている。
ちなみに実績をたたえられて爵位まで与えられているという。
エーリは宿に着くまで俺の腕を絶対に離さなかった。
まるで恋人のように口を俺の耳まで持ってきてこうささやく。
「あなたが逃げたら私は貴方に付いていくわよ、どこまでも。
彼しつこいから、延々と追っ手を差し向けてくるわ。それに貴族が決闘を申し込んだら、
決着をつけないと面子が立たないからうやむやにもできないわ」
ホントに居るんだな、魔性の女って。
しばらくすると彼女は小さい革袋を持って宿の入口に戻ってきた。
「お待たせ、はいお金。助かったわ。それと、タダってわけにもいかないから、こっちは依頼料
って事で」
貸した3エスを返してもらった他に、革袋ごとジャラっと渡された。
(ちなみに彼女は詐欺でもなんでも無く、本当にお金を忘れていたらしい)
中をのぞくと銀貨が6、7枚。黄貨が3枚。銅貨が30枚はある。
それを彼女にそくざに投げて返す。受け取ったらやらざる負えなくなる。
決闘を申し込まれた時点で手遅れのような気もするが、俺は最後まであきらめない。
「あの、なんで俺なんでしょう?俺は、今日初めて依頼を達成した冒険者、初心者なんですよ。
他の奴に頼めません?貴方が頼めば引き受けてくれる人いますよ絶対」
「ふふ。私これでも昔は冒険者をやっていたの。わかるのよ。貴方は若いけど、その腰に差している
物は飾りじゃない。かなりの使い手ね。体の一部になってる。しかもあなたは自信にあふれている。
自分の剣は負けない、ましてやあんな男に敗れる訳は無い。ただ相手が貴族だからめんどくさい。
どう?合ってるでしょう?あなた顔に出やすいわ。」
俺は思わず自分の顔を手でなぞってしまう。エーリはそんな俺を見てクスリと笑う。
「ごめんなさいね、変な事に巻き込んでしまって。でも頼めそうなのがあなたしかいないのよ。
オドは貴族だし、軍の魔法研究のお偉いだから同僚には頼めないし、それなりに腕が立つ人で、
しがらみがなく、そして、お人好しな人。私は貴方しか心当りないの」
「もしかして酒場での事は俺を試すためですか?」
「違うわ。あのときは本当に忘れたの。そのあとあなたが偶然通る道でオドと揉めたのも偶然」
悲しそうに、すまなそうに大きな瞳を潤ませて、上目づかいでこちらをのぞくエーリ。
覚悟を決めて、明日決闘を受けるしかないのか。まあ、相手を見た限り、接近戦は出来ないだろう。
恐らく魔法でくるはずだ。魔法は体内の魔力を外に出し、術を決めて、放つ。
頭で想像して発動というとても便利なものだが、発動まで隙が大きいため、その間に間合いを詰めて
気絶させれば問題ない。
それに、目の前でエーリがどんどん瞳に涙を溜め始める。
「わかった、わかりました!やりますよ。どうせ顔を見られてるから逃げれませんし!」
エーリはぱあっと顔を明るくすると、俺の手を取ってお金の入った革袋を両手で包むように
渡す。というか、ぎゅっと握って離さない。
「あのー、エーリさん。離してください」
エーリは目を潤ませたまま、スウッと妖しく細め、微笑を浮かべる。大きく突き出した胸を
俺に押しつけ、口づけをせんとばかりに顔を近づけてきた。そしてかろうじて聞き取れる位の声
でささやく。
「ねえ、お礼はホントにこれだけでいい?
私の部屋に来て。もっとお礼するわ」
オドさん、あなたの気持が少しだけ分かりました。
お待たせしてすみません
続きは明日か明後日には