9 娘がいる集中治療室の前での後悔
病院の集中治療室の前の廊下のソファーに妻が座っていた
髪はボサボサで服はヨレヨレだった
いつも身支度に気を使っていた妻とは思えないほど憔悴していた
いたたまれずに目をそらした
こうなったのも俺のせいだ
あの子を痴漢したと決めつけて本人否認のまま検察に送ってしまった
被害者の証言だけで決めつけたせいだ
いや捜査本部の意向だったのだ
犯人がつかまったので自白させろ
落としの玄さんなら落とせるだろう
上司からの言葉に
「まかせてください、絶対に落とします」
そう断言した
あの子が犯人
そんな雰囲気だったのだ
尋問の可視化?
そんなのはお題目だけだ
大きな事件ならば世間の注目があるからするだろう
小さな事件ならば予算の関係でしない
それをいいことに普通にいつもの通り尋問してしまった
それが今
結論ありきの尋問
としてマスコミに取り上げられている
マスコミだってあの子を犯人扱いしただろうに
酷い手のひら返しだ
自分たちの失敗を隠すために警察を叩く
たとえそれが冤罪を作った警察官の家族だったとしてもである
警察病院の前にはすごい数のマスコミが来ていた
テレビカメラあり
大きなカメラを構えた写真週刊誌の関係者あり
冤罪警官をスマホで写真とってみたいとの野次馬あり
ともう大混雑していた
もちろん自宅どころか妻の実家の前も同様だ
今一番旬の話題
何を報道しても数字がとれて売れる
おかげで妻と義理両親と両親、兄弟とその勤め先に至るまで連日のように非難にさらされている
それなのに犯人はいまだに捕まっていない
当初は痴漢冤罪の被害者の報復かと思われた
でもその線はなくなった
本人からの事情聴取は断られ
友人知人会社といった周辺の聞き取りも断られ
聞き込み先にはマスコミが張り込むというか捜査員の後ろをマスコミがつけると始末で全然捜査が進まなかった
それでもなんとか進めると完全ではないが不可能との結論が出た
アリバイは聞けないが、行動範囲と犯行のあった時間との接点がないとか
犯行に使われたとされるガソリンの入手先がないとか
の状況証拠からの判断である
だれが娘を火だるまにしたか知らないが、復讐は完全になされただろう
見事だよ
満足か?
見知らぬ犯人に向かって心のなかで問いかけた




