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灰白の雀  作者: Canelé
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1.夜鳥

「あの爺さん、姫と一緒に戦艦に突入して死んだらしいよ…」

「そりゃまた…しかし姫様ファンクラブの方々はほんとに簡単に命捨てるよね…」

「あれでも一応この国有数のエリートたちだからあんまり変な事言うんじゃないよ…」

メイドたちが様々噂する中、クレセア西部、ミロトーガの離宮にて、近衛兵たちは整列して姫を待っていた。


王都ラクラウスは既に陥ち、メビウスへの敗北は確実化しつつあった。


現状唯一生き残っている王族であるアリア姫は、今のこの国においては誰よりも死んではいけない人材だが、困ったことに誰よりも簡単に死んでしまうような命知らずである。

だからいつも、前線に出るときには側近が同行する。

側近は近衛兵の中から一人選ばれるが、それは要するに、すべての戦闘で最前線に出るということでもあり、長生きできないという宣告でもある。


だが、近衛兵は「姫様ファンクラブ」と言われるほど、姫に惚れ込み、彼女の為なら命すらも惜しくないような狂信者ばかりが集められている。

そのため、姫の側に仕えられること、それは彼らには、自らが1年もすれば死んでしまうことを加味してもこの上ない幸福であると、皆がそう言う。


「陛下がいらっしゃいました!」

衛兵の一人がそう叫ぶ。

隣同士で雑談をしていた近衛兵たちは、みな前を向き直る。


「皆の衆!またわざわざ集めてすまん!」

姫はいつもの元気な声で言う。


「新入りはおらぬな…」

姫は目を閉じ、そして目を開く。

そして一人の少年と目が合った。


側近選びを、姫はいつもこういう偶然に任せている。


あの老兵は、17番目に瞬きをしたから選ばれたから、偶然選ばれた。

そして、姫を守って死んだ。

たったそれだけの、物語である。


「お前じゃ。」


近衛兵のなかでも最年少の少年、レグルスはその宣告を受けて、少しばかり気怠げに

「これで一応マシな機体に乗れるようになるか…」と呟いていた。


同僚たちは、みなレグルスを祝福した。

彼はそれを聞きながら「死んでたまるか」と、生存を強く決意した。


数刻の後、領主アルベルトとアリアは会議室で話していた。

「よくやったほうだとは思うさ。たった8隻の飛行艦で26隻撃墜してるんだから…」

「ある程度は分かっておった。じゃが、やはりラクラウスより東の奴らはみな妾を王と認めておらんからどうにもならん…」


盤面は見るに堪えない惨状である。

他領は全て敵に奪われ、唯一残されたこの領土は平坦でとても守りにくく、兵力的にもここが陥落するのは時間の問題であろう。


多くの軍師はこれを「詰み」と言うのだ。



「…まあ、元々考えていた策が潰されただけだろ?」

しかしアルベルトは、少し楽しそうに笑った。

静かな空に犬が遠く吠えた。

アリアもまた顔を上げた。


その脳内に「敗北」の二文字は、全く無い。


数刻して日が沈み、月がすっかり昇るころまで、会議室の電灯は煌々と中庭を照らした。


そこには、再び日が昇るまでの、長い道程だけが在った。



「林檎は好きか?」

殿下が最初に聞いてきたのは、そんなことだった。

その質問には確か

「冷たい食べ物は嫌いです」

と返したと思う。


それから一度として冷たい食べ物が出た覚えはない。

そんな彼は、恩赦した貴族に裏切られて暗殺された。


青白い月光に照らされながら目を覚ます頃には、哨戒班に交替の司令が出ていた。

新式の単葉機のエンジンは、ようやく急降下に耐えられるようになったらしい。

航続距離は伸びたが最大離陸重量が下がり、ガトリング式の航空機関銃は積めなくなってしまった。

が特に問題はない。

練習機で前線に放り出されることすらザラにあるから、空対空ショットガンの扱いなど慣れきっている。


フラップの機構を弄り、スタビライザーを削り、エンジンのギア比を弄って回転数を上げる。


操縦をとんでもなく難化させる改造だが、最高速度は遥かに上昇する。

大昔、訓練機でこの改造を勝手に試し、それで凄く怒られたことがある。


「ちょっと試してみるか…」

この単葉機は、姫の側近になってから新しく支給されたものである。

練習機より遥かに早く飛べるし、複葉の爆撃機より暴れやすい。

だからこそ、性に合っている。


単葉機は滑走路に止まった。

レグルスはエンジンを切り、高回転数モードに切り替えてゴーグルを着ける。

フラップは3度。

エンジンを始動させ、回転数が毎秒6000回に達したのを見て、ブレーキを解除する。

100,200,400,800と速度が上がっていく。

そして彼は、操縦桿を引いた。

夜空に狼が遠吠えを上げるように、灰白色に輝く翼が宵闇に羽ばたく。


人々はその音を聞くが、熟睡した街は目を覚まさない。

フラップを仕舞い、エンジンの回転数を更に上げて高速飛行に入る。


地平の果てに、明かりが点いている敵軍の砦が見えた。

その反対方向には、黒く渦巻く海が見えた。

いずれは、きっとこの海を越えて行かねばならないのだろう。


そんなことを考えているうちに、機体は離宮の上で急旋回したり急降下したりと、単葉機を一通り暴れてみる。


そして、月が傾いてきた頃に飛行場へ戻っていった。

着陸した後、レグルスは「スタビライザーをもう少し削ったほうがいいな」と呟いていた。

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