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第9話「もう死語でしょう?」

「いや、彼女とかそういうものではないだろう」

「じゃあこれは何だと言うのですか!?」

「だから、変な言い方するなっての」


鈴華の言動には心底困らされる。


まともな回答が何一つ出来ず、これでは陸斗がただの変態のような扱いだ。


そもそも鈴華が怒るのも、論点がずれている。

何をどう曲解したら、”それ”を手にして恋人というものに行き着くのか……。


頭が痛いと、陸斗は鈴華の手から”その”女の子用の下着を奪い取った。


「俺に彼女がいたとしてもだ! こんな下着、誰が履くか!?」

「うっ……確かに履きませんが……」

「だろ? こんなちょ……」


言葉は続かなかった。

まるでこの雰囲気を消すかのように室内に扉を叩く音が響く。


来客に来たようだ。

陸斗はその女の子用の下着をベッドの上に置くと、鈴華の横を通過し玄関へ向かう。


「はいはい……」


何度も叩かれる扉にため息をつきながら扉を開く。


膝に何かがぶつかったようで、下を見ると無邪気な笑顔を浮かべる女の子が陸斗の足に抱きついていた。


「おー。未来(みく)か」

「お兄ちゃん!」


ギューと抱きついてくる女の子の名前は未来。


陸斗と血の繋がった正真正銘の妹だ。


だが今日は未来が来る約束の日ではないはず……。

陸斗は目を丸くしながら未来のニコニコ顔を見下ろす。


とりあえず鈴華を待たせるわけにはいかないと思い、足に抱きついている未来を軽々と持ち上げた。


「きゃはっ!」と無邪気な笑い声をあげる未来をあやしながら部屋に戻ると、おとなしく畳のうえに正座をする鈴華と目が合った。



「り、くと? そ、その子は一体…」

「お兄ちゃんの彼女さん!?」

「うおっ!? おい、未来!」


未来は陸斗の抱き上げている腕から飛び降り、鈴華の元に駆けていく。


鈴華に思い切り突進をし、ギューという効果音をつけながら抱きついた。


戸惑いを隠せない鈴華は陸斗と未来を交互に見ながら困り果ててしまう。


だが未来の無邪気な笑顔に戸惑いがすぐに消えたのか、微笑みを浮かべながら未来の頭を優しく撫でだした。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんの彼女さん?」

「かかか、彼女……。そ、そう言っていただけるとうれしいですわ」


ポッと頬を染めながら喜ぶ鈴華。


質問の答えになってないのにはあまり突っ込まないようにしておくことにした。


「彼女じゃないだろ……。未来、変なことを聞いたりするんじゃない」

「ぶぅ〜」


頬を膨らませてぶぅぶぅ言う未来。

いくら幼稚園で年長さんだからといってもまだまだ子供だ。


「陸斗。この……未来ちゃんとは一体……」

「俺の妹」

「高山未来、五歳です!」


明るく元気に挙手をしながらハキハキと自己紹介をする。


それに合わせて鈴華も未来に自己紹介を返していた。


陸斗の彼女になる予定、と未来に吹き込んでいたのには何も言えなかった。


「陸斗に妹なんていたのですね」

「まぁ……別々に暮らしているからたまにしか会わないけどな」

「そうなんですのね」


鈴華は大して気にせず未来と戯れることに専念する。


未来は早速鈴華に懐いたようで、キャッキャッと無邪気に笑っていた。


そんな妹の姿をかわいいと思ってしまうのだから、重度なシスコンであると自覚症状に悩まされる。


未来と戯れる鈴華はやさしい慈愛に満ちた表情をしていた。


「あ! 未来のパンツ!」


未来は鈴華から離れるとベッドによじ登り、先ほど鈴華から取り上げた下着を手に取った。


これがもめていた原因の”女の子用の下着”である。


こんなのを履いている彼女というものがいるなら、逆に拝見したいものだ。

ちょうちんパンツなんて、今では死語だろうと、あまりに下らないもめごとに陸斗は大げさにため息をついた。


「前に未来が泊まっていったときに忘れてったやつ。今日持ってかえれよ」

「うん!」


未来はベッドから飛び降りると、肩にさげていた黄色の鞄の中にパンツを入れる。

つくづくどうでもいいことで揉めたと、頭痛にめまいと踏んだり蹴ったりだった。

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