第6話「参ってしまう。こんなのは……」
わかってて陸斗は手を伸ばす。
箸を手にすると、黒い弁当から卵焼きらしきものをとって頬袋に詰め込んだ。
さすがの鈴華もギョッとして短く悲鳴をあげる。
「なっ、何食べてるんですの!?」
「……まずっ」
不味いと言っておきながらも箸を進めていく。
鈴華はそれを隣でハラハラとしながら止めようとした。
「そんなの食べてはいけませんわ!」
「必死になって作ってくれたんだ。それを粗末になんか扱えるか」
「でもっ……」
「食えないことはない。せっかく作ってきたんだからちゃんと食うよ」
安心させたいと微笑み、鈴華の頭を撫でる。
鈴華は泣きそうに瞳を潤ませながら、陸斗の腕にすがりついてきた。
目が合った瞬間、何故だか鈴華の姿に胸が高鳴った。
マズイ。
一瞬でもかわいいと思ってしまったと、理性がドンドン強くなる。
「ありがとうございます。ですがもういいですわ。その気持ちだけで充分ですわ」
「別に。気を使ったわけじゃねーし」
「私、もっと練習をしますわ。陸斗に美味しいって言ってもらえるように、がんばりますわ」
「期待はしないでおく」
突き放さなくては。なのにもう少しだけと欲張る心が湧きあがってくる、
顔を赤く染め、うれしそうに頬を緩ます鈴華はどこにでもいる普通の女の子だ。
困ったものだ。
どうしたものか。
その照れた笑顔をもっと見ていたいなんて……不釣り合いな望みだ。
鈴華は陸斗を優しいと語るが、まったくそんなことはない。
いつもならこんな黒い弁当を食べようとも思わない。
こんなのはただの気まぐれでしかない。
こうやって擦り寄られるのも嫌いであり、人に見られるのはもっと嫌だ。
振り払うことも出来ず、むしろ引き寄せてしまっていることがおかしかった。
金のあるお嬢様なんか嫌いだ。
なんの苦労も知らず、金に困ることもない我が儘し放題なのだから。
だけど鈴華からは嫌みなど一切感じられない。
お嬢様ならお嬢様なりに努力をしているように見受けられる。
そう好意的に見ている自分が、本当は打算的になっているのでは? と想像して吐き気がした。
鈴華は嫌いではない。
だからといって好きでもない。
絶対に選ばない。
こんなことにうつつを抜かしている場合ではないのに。
「また……作ってくれな」
どうやら自分は気が狂ったらしい。
頭を抱えながら空を仰ぎ、ため息をつく。
今は金が一番。
愛なんかに気を取られている暇はない。
晴天の空に戒めを。
それが陸斗の精いっぱいだった。




