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第6話「デートのお誘いですわ!」

「陸斗! 明日デートいたしましょう!」

「はぁ?」


思わず箸でつかんでいた卵焼きを落としてしまう。

唐突に何を言い出すかと思えば、デートのお誘いとはどういう状況か?


「な、なに言ってるんだお前」

「いや、お料理も大分上達いたしましたから。たまには別の形で食べてもらいたいと思いまして」



ポッと頬を染めながら両手を添える。

たしかに鈴華はこのおよそ十日の間でかなり料理の腕前が上達した。


なんでも料理長に一から丁寧に教えてもらっているとか。


いや、そんなことよりもデートに誘われたことに注視すべきである。

明日は陸斗の仕事が休みであるが、それをわかって言っているのだろうか。


「なぜ明日なんだ」

「ここの監督さんにお聞きましたの。そうしたら 明日は仕事も休みだし陸斗とデートでもしてきなとおっしゃっていたのですわ」


犯人は監督であった。

これでは断ろうにも断れない状況になってしまっている。


鈴華がここに来るようになってからというもの、陸斗は職場の冷やかし対象となっている。


このお誘いを受けたら受けたでまた周りから何か言われると思うと、非常に腰の重い話であった。


せっかくの休みなのだからゆっくりと寝たいという本能があった。


睡眠を選びたいところだが、なかなか思うように事は進まない。


「ダメ……ですの?」


涙で潤んだ大きな目に見つめられると、心にグサグサしたものが刺さる。


陸斗から見ると、鈴華はズルいほどに美しい容姿の持ち主だ。


色白の肌に華奢な身体。

大きな黒目のぱっちりした目に、桜色の小さな唇。


春を感じさせるナチュラルなピンクブラウンの巻き髪。

気品と愛らしさを兼ね備えた花のような女性だ。


このデートの誘いを受けても断っても、何かしらの厄介事がついてくる。

別に断ったところで彼女が傷つくだけの話である。


たったそれだけの話だというのに、陸斗の中にはもやもやとしたものがあり、腑に落ちない気持ちがあった。


「私、陸斗のお家へ行ってみたいのですわ」

「え……!」

「彼女気分を……。いえ、一人暮らしだと何かと大変でしょうし明日くらいお手伝いでもと」


言い直したつもりだろうが、本音はまったく隠せていない。

ある意味で、バカ正直に言われるとむずがゆくもあり、つい笑ってしまう。


陸斗はわざとらしくため息をついて頭をかくと、眉根を寄せながら鈴華に目を向けた。


「おんぼろアパートだけど?」

「か、構いませんわ! 陸斗は休みたいなら休んでいてもいいんですのよ。私は私で出来ることをしますから」


どうやら陸斗が休みたいという気持ちは汲み取っていたようだ。


鈴華はどこまでも真っすぐで純粋だ。

陸斗のために何かをしたいと考え、行動に移している。


その純粋さゆえに、陸斗には少し眩しく感じられた。


「明日、〇〇駅まで迎えに行く」

「〇〇駅ですか? 陸斗の家は〇〇駅に近いのでしょうか?」

「駅の裏辺り。徒歩十分くらいかな」

「そうなんですのね。なら明日駅11時でよろしいですか!?」

「あぁ、わかった。明日な」


その笑顔に陸斗の胸はチリッと焦げつくような痛みを知る。


手をくしゃりと握りしめては力を抜いていくを繰り返し、困り果てていた。


そんな陸斗とは正反対に、鈴華は頬を染めて嬉しそうに笑っている。

こうして明日は鈴華が陸斗の住むアパートにやってくることに決定した。


***


時間はあっさりと流れ、デート当日。


陸斗は普段の休日よりも少し早めに起床し、鈴華を迎えに行く支度をする。

さすがに汚い部屋に人をあげるわけにもいかず、慌てて掃除をした。


人を呼んでも問題ないくらいには片付いたであろう。


約束の時間まで残り十五分。

陸斗は欠伸をしながら家を出て、駅への道のりをソワソワと歩いていた。


少し歩くとすぐに駅が見えてくる。

駅にはショッピングモールが隣接され、食材以外にも何でもそろっているため訪れる客層は幅広い。


特に若い主婦層が多く、陸斗もそこをよく利用していた。

その理由を思い浮かべて、あたたかい気持ちに自然と口角がゆるむ。


陸斗にとって大切なことを考えているうちに駅前に。


まだ約束の五分前だ。

だが鈴華はそわそわと時計を見ながら、微笑みを浮かべて陸斗を待っていた。


やっぱり早く着きすぎるタイプだと、わかりやすい鈴華にクスリと笑ってしまう。


そーっと近づいたつもりであったが、鈴華はすぐに陸斗の存在に気付いて太陽のような笑顔で駆けてきた。

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