第50話「チョコレートのように甘いストーリー」
「ふふっ、鈴華ちゃん。確かに男は欲に忠実よ? でも好きな子の前では臆病になる男もいるんじゃないかしら?」
「えっ……?」
「陸斗はどっちだろうねぇ。さすがにそれはあたしにはわからないわ」
そう言って志緒利は再び鈴華を引っぱり、陸斗のもとへ突き返す。
「あたし、今日はもう帰るわ」
「えっ? えぇ?」
困惑する鈴華に微笑みかけると、志緒利は腰に両手をあてて陸斗の前に立つ。
「陸斗! あんたウジウジしてんじゃないわよ! 傷つけることを恐れてちゃあ、何も出来ないっての! 抱きたいならさっさと抱いてスッキリしやがれ、この意気地なし!」
男勝りに陸斗を罵倒すると、志緒利はスッキリした面持ちで公園から出ていった。
よくわからない説教を食らってしまい、それから陸斗と鈴華は互いに恥ずかしがって何も言えずにいた。
また別の日、大学で講義を終えた鈴華は直接陸斗の職場へ向かう。
日が暮れたところで陸斗も仕事を終え、二人手を繋いで短い時間デートをする。
「家、寄ってく……?」
アパートの前までたどり着くと、陸斗が橙色に染まった顔をこちらに向けて訊ねてくる。
それに鈴華は熱に浮かされた顔をしてうなずいた。
部屋に入ると、鈴華は一切陸斗と目を合わせず、代わりに身をピタリと寄せる。
雰囲気を悟った陸斗は鈴華の頬に手を添え、こちらを向かせるとそっと唇を重ねた。
何度も角度を変えて鈴華の唇を貪っていく。
その口付けは口内にまで達し、犯すような激しい口付けに鈴華は息を荒くしながら陸斗の肩を掴む。
時々目を開けば、真っ直ぐな眼差しの陸斗と目が合って、羞恥心に溺れる。
一体どれくらいの時間をそうしていたのだろう……。
ようやく解放されたとき、鈴華は力なく陸斗の腕に支えられていた。
「はぁ……」
頬を紅潮させながら乱れた息を整え、力の入らない手でなんとか陸斗のシャツを掴む。
呼吸が整ったところで、何も言おうとしない陸斗に顔を上げた。
「ぁ……」
蚊の泣くような小さな声が漏れ、陸斗の表情に鈴華は両腕で顔を隠す。
こんなにも熱に浮かされたように色っぽく鈴華を見つめてくる陸斗ははじめてだった。
これは……危険だ――。
鈴華からはじめたことなのに、どうしようもなく恥ずかしくてたまらない。
「陸斗っ……!」
「歯止めが効かないぞ」
「え?」
「一度触れてしまったらもう歯止めが効かない。それで鈴華を傷つけてしまうくらいなら……俺は触れない」
あぁ……。
どうして陸斗はこんなにも優しいのだろう。
きっとこんなにも優しい陸斗だから好きになった。
陸斗を愛しているからこそ、触れてほしいと思うし初めてを捧げようと思える。
躊躇いも不安も、陸斗のことなら何だって受け止める。
陸斗だから恥ずかしくても見せられるの――と、鈴華はしがみつくように腕を陸斗の背に回した。
「怖くないって言ったら嘘になります。でも私は陸斗を受け入れたいです。不安とかよりも……陸斗に触れてほしいという気持ちの方が大きいのです」
「鈴華……」
「私に触れてください」
鈴華は瞼を伏せると陸斗に顔を近付けていき、優しくキスをする。
優しい優しいキスをした後はもう、二人の間に戸惑いも躊躇いも何もなかった。
ただ互いを欲し、何度もキスを繰り返しながら床へ重なり倒れこんでいく。
荒くなった息遣いと服の擦れる音。
肌の重なり合う音が静かな室内に響き渡る。
絡まり合った指先からは相手の温度を感じ、そこからいとおしさが生まれていく。
痛みも快感も一体となり、全身で彼を感じる。
彼の良いところも悪いところも、強さも弱さもすべて受け止めてみせよう。
愛しているから……。
愛しているからあなたの全てを知りたくなった。
理解したいと思った。
受け止めたいと願った。
”きっと私はこれからもあなたを変わらずに愛していくんだわ──”
「あなただけを……愛しています……」
これが、繋ぐ人を愛した鈴華の愛のカタチ。
その幸せな抱擁は非常に愛に満ちた優しい時間であった。




