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第5話「心の矛盾。戒めて」

その際、公園の出入り口から見覚えのある姿が走ってくるのが見えた。


ハッとして顔を上げると、目の前には息を切らす鈴華が立っていた。


「お前……」


「陸斗……! ちょっと…待ってくださいなっ!」


膝に片手を付き肩で呼吸をする鈴華。


よほど急いできたのだろうか、車に乗ることも忘れ走ってきたようだ。


鈴華の足で片道徒歩四十分の距離を走るのはしんどいだろう。


汗をだらだらと流し、疲れ切っている鈴華の肩を掴んでベンチに座らせた。


鈴華の腕には風呂敷に包まれた二段重ねの弁当箱が二つ。


約束を破ることなく、本当に弁当を作ってきたようだ。


呼吸が落ち着くと、鈴華は鞄から白いハンカチを出し、汗を拭う。


そしてにこりと笑い、大事に抱かれていた弁当の一つを手渡してきた。



「約束のお弁当ですわ」

「あ、あぁ…」


受け取った後、重みのある弁当と鈴華を交互に眺める。


「な、なんですの?」


「いや、本当に弁当作ってきたことに驚いて……」


「まあ! 私一度言ったことは最後までやり通す主義ですのよ!」


「ご、ごめん……」


鼻息を荒くし、えばりだす鈴華がおかしくてつい笑ってしまう。


すると今度は頬を膨らませ、腹を立てて睨みつけてくる。



「何がおかしいんですの!」


「いや、ごめんって。ホント……ただうれしいだけだから。ありがとな」


珍しく陸斗がお礼を言ったせいか、鈴華は顔を真っ赤にし顔を背けた。


だがすぐに表情に憂いを差す。


もう一つの弁当袋をこっそり陸斗の見えない位置に引っ込める。


「は、早く食べてくださいな! いっ、一生懸命作ったので」


「お、おぉ……」


不思議に思いつつ、鈴華に急かされて弁当の包みを開く。


なんとも色鮮やかで、食欲を増幅させてき、冷めても美味しそうな香りが鼻奥にまで届きそうだ。


あまりに見事なものだったので、味気ないものばかり食べてきた陸斗の腹が素直に音を鳴らした。


「やばっ……こんなの食べていいわけ?」


「た、食べてくださいな。味は保証いたしますわ」


陸斗は添え付けられていた箸で、おそるおそる最初に目に入った和風な卵焼きを口に運ぶ。


口に入れた瞬間、ふわふわの食感とほどよい甘さと塩加減が絶妙に広がっていった。


「うまっ!」


あまりの美味しさに他のものもぽんぽんと口に入れていく。


それを隣にいる鈴華は罰が悪そうに微笑み、目を反らしていた。



さすがに様子がおかしい。


一緒に食べる気だったろうに、鈴華は自分用の弁当箱を一向に開こうとしない。


一人で食べているのはさすがに申し訳なく、違和感もあって陸斗は箸を止めた。


「お前、食べないのか?」


「えっと……た、食べますけど……」


鈴華は微弱に震える手で自分の弁当の包みを開くが、蓋に手をかけてそれから動かない。


何をためらっているのか。


陸斗は大事なことに気づいていないかもしれないと、とっさに手を伸ばして弁当箱のフタを無理やり開けた。



「……何これ」


「こ、これはですね……!」


鈴華の目が泳いでいる。


汗が流れているのは暑さだけのせいではないだろう。


鈴華の膝のうえにある弁当は、正直食べものと呼べる代物ではない。


真っ黒で、焦げて何を作ったのかわからないくらいだ。


ただ一つ、真っ黒の中にある茶色混じりの黄色いものは何かわかる程度のもの。


「これを作ったのは……あんたなのか?」


「……申し訳ございません」


鈴華の作ったものと認めたが、今食べているこの弁当は誰が作ったのだろう?


何度も何度も繰り返し、ようやく上手くいったものなのだろうか?


「怒らないから正直に話してくれないか?」


怖がらせたいわけではない。責めたいわけでもない。


一途に弁当を作ってくれたことは嬉しかった。


強い言い方にならないよう意識した声色で問うと、鈴華は涙目になってスカートの裾を握り締めながらこちらを見つめた。



「そのお弁当は……私が作ったものではありません」


ようやく発してくれた声はか細く震えていた。


だから彼女はなんとなく元気がなかったのだろう。


よく見ると彼女の白く細長い指は、ばんそうこだらけだ。


おそらく慣れない手料理を美味しく作ろうと必死になっていたのだろう。


今、彼女の膝のうえにある弁当は努力しての結果。


真っ黒な弁当を食べさせたくなかったのは、彼女なりの想いだったのだ。



必死になって弁当を作る彼女の姿が浮かんでくる。


なんだか温かい気持ちだ。


不謹慎にもうれしく感じている。


ここで突っぱねてしまえばこれ以上彼女を振り回さなくて済むのに――。

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