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第48話「叫び。溶ける。抱きしめて」

そんな一言を呟いて、父・優斗は去っていった。


部屋には陸斗と鈴華が二人残される。


鈴華が顔をあげ、陸斗の様子をうかがうと照明に照らされて透明な雫が床に落ちていくのを見た。


陸斗は赤くなった目元をこすり、ぎこちなく口角を上げて笑いだす。



「鈴華の熱いプロポーズ、受け取った」


「ププププロポーズ、だなんて!」


「鈴華の言葉がなかったら……俺は……俺は……」



声を震わせて、陸斗は力なくその場にしゃがみ込む。


鈴華とつないだ手をきゅっと縋るように握りしめた。


顔を伏せ、鼻をすすりながら陸斗は涙する。



「ごめん、鈴華。今は、今だけは泣くのを許してくれ」


「陸斗……!」



ぐしゃぐしゃになった感情を吐き出すように、陸斗は震える声で早口に言葉を出していった。



「もう何をしたってあの頃の家族は戻らないんだ! どれだけ願ったってもう元には戻らない! だけど……だけど本当はまた家族で笑いあいたかった! ただみんなで笑っていられれば、それだけでよかったんだ!」



思い浮かぶのはまだ家族が壊れる前の幸せな日常だった。


どれだけ願ってももう戻らない。


陸斗はこれからの家族のためにも、父を許してはならないと思っていた。


一瞬だけ浮かんだ泡沫の夢は、消えてしまった。


これが罪の重さ。


陸斗の父に、許しは与えられない。


これからもその罪を背負って、小さく小さく生きていく。


どんなに手を伸ばしたくても、陸斗がその背中を支える事はない。



母の意思も、未来の気持ちも聞かない勝手な判断だ。


だがそれでよかった。


父の生き方を知るのは陸斗だけでいい。


決して許されないことをした父へ、陸斗は拒絶を送り続ける。


それが陸斗に出来る精一杯の姿勢であった。



「陸斗」



やさしい鈴の音が陸斗の名を呼ぶ。


その声に顔をあげると、慈悲深いやわらかな微笑みを浮かべる鈴華がいた。


鈴華は陸斗をそっと抱きしめると、陸斗の髪を撫でる。


どこか懐かしささえ感じさせる、やさしい手つきであった。



「陸斗はがんばりましたわ。いっぱいいっぱい耐え続けましたね」


「鈴華……俺は……」


「今までずっと一人で抱えてきたんでしょうね。でもそれも今日で終わりにしましょう。……私と、半分こにしませんか?」



どんな時も真剣に陸斗と向き合い、その全てを受け止めようとする。


喉の奥に何か詰まった感覚がし、胸は苦しいくらいに熱くなった。


陸斗は鈴華の胸に擦り寄り、そして手を伸ばして鈴華を抱きしめ返した。


浴衣をぎゅっと握りしめて陸斗は泣きながらうなずいた。



「……ありがとう、鈴華」



喜びも悲しみも、苦しみも、すべて二人で分かち合う。


そんなことは夢物語だと思っていたが、鈴華とならばそれが出来る気がした。



しばらくの間、陸斗は涙を流し続けた。


鈴華もまた涙を流す。


この日、陸斗は拒絶の道を選び、新たな方向へ進むことに決めた。


その道を鈴華と二人で歩んでいく。そう決めた一日となった。


罪は消えない。一生。


罪を抱えて生きていく。


重く苦しい罪を知った鈴華は、陸斗を支えていきたいと、涙を流す心優しい青年をそっと抱きしめ続けた。

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