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第47話「幸せを願われて」

「あぁ」


「だから親父にはお袋にも未来にも会わせない。もう今さらあの時には戻れないのだから」



後ろから支えてくれる鈴華の手を引き、前に連れてくる。


鈴華が顔を上げると、寂しさを残しながらも冷静に父・優斗と向き合う陸斗がいた。



「俺は、親父を許さない。その気持ちに変わりはない」


「……許さなくていい。この謝罪はただの自己満足だから」


「いつか、お袋も未来も会いたいという日がくるかもしれない。それはそのとき、考えるよ」


「ありがとう。ありがとうっ……! 本当に、すまない……陸斗……!」



父・優斗は大粒の涙をこぼし、畳を濡らしていく。


そこに手を差し伸べるようなやさしさはいらない。


きっと陸斗は許してはいけないから。


どんなに、どんなに優しかったころの父が思い浮かんでも。


父は決してやってはいけない方法で家族を傷つけた。



”許せると言えるのはどれだけ強い人なのだろう”



そんなことを考えても、陸斗の理性がそれを許さなかった。


息子の陸斗くらい、父を一生許さない存在が必要だ。


それが陸斗のためにも、父のためにも、それに家族の為であった。



「でも親父の気持ちはわかったよ」



その言葉に父は顔を上げる。


やせこけ、疲れきっている顔に一瞬だけ目に光が戻った。


陸斗は困ったように微笑み、手を伸ばして父の肩をポンと叩く。



「親父の気持ちも全部わかった。でも許せないものは許せない。だから俺は今、親父と再会したからって何かをしようとは思わない」



母に会わせる事も、未来に会わせることも、決してしない。


ここで会わせてしまったら父の罪がすべて許されてしまうかのようになる気がした。


それは絶対に許してはならない。


決して父の犯した罪は消えない。


罪を償うためにも、陸斗は父を受け入れるわけにはいかなかった。


ただ、もうあの時の狂気に満ちた父はどこにもいない。


それだけを知れてひどく安堵した。






それから陸斗は父・優斗と机越しに向き合って懐かしい親子の会話をした。


父が出所してからこの旅館で何をしていたのか。


何を考えて生きてきたのか。


逆に陸斗もまた高校卒業後の仕事についてなどを詳しく話した。


許す許さないの範疇を超えて、ただお互いを知るために話していた。



「陸斗は、六条のお嬢さんに付き合っているんだね」


「そ、そうだよ! 六条がどうとか関係ねぇからな」


その言葉に鈴華は顔を真っ赤にして、陸斗の腕にぴったりとくっつく。


嬉しそうに頬を染めて微笑む鈴華に、父・優斗は穏やかに目を細めた。



「鈴華さん」


「は、はい!」


突然の呼びかけに鈴華は声を裏返しながら返事をする。


それに対し陸斗の父は一瞬クスリと笑うと、ゆっくりと頭を垂れた。



「ありがとう」


それだけ言うと、優斗は立ち上がり部屋を出て行こうとする。



「休憩の時間も終わりだ。もう行くよ」


出口まで歩いていくその背中が、以前よりも小さく見えた。


陸斗は唇を噛みしめ、その背中を黙って見送った。


きっとここで声をかけてしまったら、陸斗は父に甘えを与えてしまう。


そう考えると、去りゆく背中にかける言葉はなかった。


だが鈴華は違う。


鈴華は陸斗の手を引っ張り、出口へと駆けて飛び出すと、涙をいっぱいにためこんで頼りない背中に向かって叫ぶ。



「私は! 陸斗のことを傷つけたあなたを許せませんわ!」



その言葉に陸斗の父は足を止め、振り返ることなく、拳をぎゅっと握りしめた。


「あなたが傷つけた分。いいえ、それ以上に私は陸斗を幸せにしてみせますわ! お約束いたします!」



陸斗の目が大きく見開かれる。


真っすぐに想いをぶつけてくる鈴華に胸が熱くなった。


こうして何度も気持ちを言葉にして伝えてくれるから、陸斗の心に響いたんだ。


(ちくしょう。コイツ、本当にカッコいいわ)


負けていられないと、陸斗は胸を張って父・優斗の背中を見送った。


きっと鈴華がいれば過去も乗り越えられる。


「陸斗、幸せになれ」


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