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第45話「彼女の前で恥ずかしい」

鈴華は胸をはって、陸斗の父と対峙する。


誰がどうとか関係ない。鈴華が陸斗を愛して、その愛を陸斗が返してくれただけのこと。


ホッと息を吐く優斗に、聞いていたよりも荒々しい人には見えなかった。


だが陸斗は割り切れない気持ちのまま、眉をひそめて優斗を睨んでいた。


一向に二人が話そうとする気配はない。


見守るのも大事だろうが、鈴華は見ているだけでは焦りが出てしまう。


もっと何か、鈴華に出来ることはあるんじゃないかと、部屋の鍵を握りしめ、じっと優斗を凝視した。


「お父様、お時間はありまして?」


「えっ? あ……あと少ししたら休憩をもらえるけど」


「でしたら休憩時間に私たちのお部屋に来てくださいな。そこでお話をしましょう」


「! 鈴華!? なに言って……」


「決まりですわ! それではお待ちしておりますから。部屋はこの番号ですからね!」


強引に決定し、番号の書かれた部分を陸斗の父に見せる。


そして陸斗の腕に手を巻き付けると、鈴華は陸斗を引っ張りエレベーターに乗りこんだ。





部屋に戻ると鈴華は陸斗と並ぶ形で座布団に座る。


そして両腕を大きく広げると、真剣な眼差しで陸斗との距離を詰めた。


「さぁ、陸斗! 抱きついていいですわよ!」


「は、はぁ?」


「黙って抱きつけばいいんです! さぁ!」


戸惑いを隠せない陸斗はおずおずとしながら鈴華の背に手をまわす。


鈴華は甘やかすように陸斗の背をポンポンと撫で、石鹸の香りに癒されまぶたを伏せた。



「陸斗。先ほどは少しだけびっくりしましたね」


「……びっくり、した。何年振りなんだろうか。会うのは」


「陸斗のお父様も驚いていらっしゃいましたね。……会うのは怖いですか?」



急所をつく問いかけに陸斗は小さくうなずいた。


「会うのが嫌だったわけじゃない。だが、いざ会うと身がすくんで……。古傷が痛んで、呼吸もうまく出来なかった」



鈴華は何も言わず、陸斗の背を撫で続ける。


困惑でいっぱいだった陸斗も、徐々に落ち着きを取り戻して鈴華の肩に顔を埋めた。



「……鈴華がいてよかった」


陸斗が顔を上げ、力なく鈴華に微笑む。



「鈴華がいなかったら俺はどうなっていたかわからない。鈴華がいたから、話す機会を得られた」


「私が勝手にお父様を部屋に呼びつけました。勝手に……。本当によかったのでしょうか?」


「いずれは会うことになっていた。……鈴華がいるときでよかった」


「陸斗は優しすぎですわ……。私の勝手に、そんな風に優しくして……」


「それで鈴華の気持ちが深まってくれるならラッキーってことで」


「当たり前に決まってますわ!」



そう言って鈴華は噛みつくように陸斗の唇に自分の唇を重ねた。


まるで獣のように呼吸を乱しながら二人は求め合った。


唇が離れると透明な糸が二人の間を繋ぐ。


涙に濡れた目をして、二人は見つめあって、微笑んだ。


すると部屋の扉がノックされ、向こう側から父・優斗の声がする。



「陸斗、入っていいか?」


「……いま、あける」



名残惜しそうに鈴華の手から陸斗の手が離れていく。


少し乱れた浴衣を整え、鈴華は座布団に正座して二人を待った。


戻ってきた二人は目を合わせない。


優斗の方は陸斗を気にしているが、陸斗が目を向けられずに気まずそうだ。


(陸斗……)


鈴華がそっと机の下で陸斗の手に手を重ねると、陸斗はホッとしたように握り返し、ようやく顔をあげた。






父はこんなにも小さかっただろうかと、陸斗は向かい合って座る父を見て目を丸くする。


(あぁ、それだけ時間が経ったのか……)


父・優斗は痩せて白髪も増えた。

陸斗も働きだしてから身体がたくましくなり、今では父と並んでも明確な差が出ることだろう。


「本当に……久しぶりだ。陸斗。元気だったか?」


父の弱々しい言葉に陸斗はぎこちなくうなずく。


なかなか次の会話につながらない。


お互いに探り探りで、決まり悪さに肩がすくむ。


「陸斗のお父様は……出所してからずっとここで?」


「! あぁ。ここで働かせてもらってる」


このまま時間が過ぎるのは惜しい。


鈴華が積極的に盾となりつつ、陸斗の言葉を代弁した。


(あー……カッコわりぃな、俺)


男らしさに欠ける。


鈴華に守ってもらっているようでは恥ずかしくて彼氏面なんて出来ない。


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