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第44話「トラベルパニックですわ!」

以前よりも鈴華との距離が近づいたような気がする。


心が通じ合えば十分幸せだと思っていたが、肌を触れ合わせて愛しさはますます強くなった。


幸せを満喫する陸斗は、鈴華には内緒でプレゼントを用意する。


夜、仕事を終えて帰宅すると鈴華が中で待っていた。


合鍵を渡してから、鈴華は大学の講義後に陸斗のアパートで料理をするようになっていた。


一緒に夕飯を食べ、サブスクリプションで映画を観る。


陸斗はタイミングをみて、プレゼントに用意した内容を映した画面を見せた。



「温泉……ですか。どうしたのです、これ?」


「監督が割引券をくれたから予約しようと思って。鈴華と行けたら……」


「い、いいんですの!? これってデートでしょうか?」


「そうだな、デートだな」


「は、はぅ……!」


心のハートが飛び出そうなほど、鈴華は舞い上がる。


キャーキャーとはしゃぐ鈴華に、陸斗はこれでよかったと幸福感に酔っていた。


陸斗はそれを温かく見つめ、空を見上げた。


鈴華と付き合ってから、少しだけ世界が優しく見えるようになった。


張り詰めていた空気が緩まり、肩を張っていた力が抜けた。


大事にしよう。


そう思い、温泉旅行の日を心待ちに日々を過ごした。





温泉旅行当日。


陸斗が車を走らせ、緑の生い茂った山奥にある老舗旅館にやってきた。


滝の観光名所が近くにある旅館の一室に案内され、窓の外を覗くとダムに続く大きな湖が視界に広がった。


深緑の美しい湖に、山の涼しさが心地よく、大きく深呼吸をする。


ふと、隣に立つ鈴華に目を向けると、外から入り込む風が鈴華の波打つ髪をなびかせていた。


(きれいだな……)と思い、目を奪われていると鈴華の笑顔が向けられる。


「陸斗! とっても素敵ですわね!」


「そうだな」


鈴華は子供のように部屋を探検していく。


部屋の外には小さな温泉が流れており、個室で満喫できるようになっていた。


手を伸ばし、お湯を掬い、手から溢れていく。


部屋の中でくつろぎ出した陸斗へと振り返り、華が咲いたように笑った。


「陸斗! 素敵な一日にしましょうね!」


そう言って飛びつくように陸斗に抱きついてくる。


ピンクブラウンの髪がふわふわで、甘い香りがする。


ちょっとした触れあいがこの上なく幸せだった。



夕食前に二人は男女分かれて温泉へ。


乳白色の温泉と絶景を満喫した後、鈴華が出てくるまで旅館を散策する。


一階にあるお土産屋でも見てこようかとエレベーターを待っていると、少し離れた場所から人が近づいてきた。


足を止めた人に、陸斗は顔を上げる。


そして部屋の鍵とタオルを床に落とした。


手が震えだし、呼吸が出来なくなる。


とっくに治ったはずなのに、陸斗の身体に残る傷跡が疼くように痛んだ。




「あっ! 陸斗見つけましたわ!」


そこに温泉から上がり、陸斗を探していた鈴華が駆けてくる。


長い髪を一つにまとめ、浴衣を着た鈴華は色っぽい……が、それに浮かれる空気はない。


湯上がりに顔を赤くしていた鈴華であったが、すぐに陸斗の異変に気づき、向かい合う人物に目を向けた。


「え……っと、お知り合い……」


「どうして、親父がこんなところにいる」


「えっ! お、お父様……?」


驚いた鈴華は振り回されるように陸斗と男性を見比べる。


母親似だと思っていたが、こうして比べるとちゃんと面影はあって本当なんだと言葉を失ってしまう。


「陸斗……」


もの悲しい顔をした男性が震える声で陸斗の名を呼ぶ。


その声に陸斗は歯を食いしばり、父親の胸ぐらをつかみかかった。


「なんで、親父がこんなところにいるんだよ」


「ここで、働かせてもらってる……」


「……そうか」


それ以上、親子の会話は続かない。


どうしても気になって鈴華は陸斗の顔を覗き込む。


わかっていたことだが、こんなにも辛そうな陸斗は初めてだと胸が苦しくなった。


いつまでも悲しんでいてほしくない。


きっと今、鈴華にしか出来ないことがあると、意を決して陸斗の父・優斗の前に出る。


「あの! 陸斗のお父様なんですよね!? 私、陸斗とお付き合いしております、六条鈴華と申します!」


「六条って……道久の……?」


「工藤道久は私の叔父ですわ」


「そうか。君が……陸斗の彼女なんだね」

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