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第43話「あなたの選択は私の選択ですわ」

自分の命が長くないと知ったとき、工藤は一体どのような感情に捕われたのだろうか。


絶望か、解放感か。


この小切手を渡すという結論を出したことは、覚悟は生半可なものではないだろう。


その思いを受けとめないと、陸斗はただの鬼畜になってしまう。


なんて卑怯な男だろうか。


この悔しさの矛先はどこに向ければいい?


割り切れるほど陸斗はまだ、大人になりきれない。



「俺はお前を許さない。この先もずっとお前を憎み続ける」


あれほど憎んだ相手の命はこうもあっさりと失われようとしている。


陸斗の気持ちを置き去りにして、事は勝手に進んでいく。


お金で解決することではないと、破り捨てることも出来ずに陸斗は工藤を睨みつけた。



「陸斗……」


そっと陸斗に寄り添い、事を見守る鈴華。


対面する工藤は陸斗の返事をわかっていたようで、うろたえることなく静かに息を吐いた。


「あぁ、わかっている。許さないでくれ。こんなのは全部、自己満なのだから」


ただ自分がこの世から去った後、少しでも陸斗たちの生活の足しになればよかった。


その想いに加え、工藤の中には新たな願いが生まれていた。


「鈴華ちゃん。陸斗をよろしくな」


「! そんなのっ……叔父様に言われることではありませんわ!」


「ははっ、本当にそうだな」


これから陸斗は彼女を守っていけるよう強くなっていかなくてはならない。


未来へと繋げていく。


その未来に憎しみは持ち越さないでほしいと、叶わぬ願いを抱いて工藤は立ち上がる。


「すまなかった。もうこれを機に陸斗の前には現れない」


「当たり前だ。……それでも、この小切手はもらっておく。お袋が退院するまでと、未来が大人になるまでに必要だからな」


破り捨てられるくらい潔ければよかった。


金に執着して生きてきた分、解放されたんだと笑いとばせればよかった。


……そんなのは陸斗の一感情であり、家族を思えば不要なものだ。


陸斗は不敵に笑って小切手をポケットの中にしまいこむ。


「お前と違って俺は諦めてねーから! 生きて生きて生き抜いてやる!」


そう言って陸斗は鈴華の手をつかみ、工藤たちに背を向けて走り出す。


「! 陸斗!? 急にどうし……」


「仕事に戻る! 悪いけど、仕事が終わったらすぐ病院に向かう!」


「病院……ですか」


鈴華の疑問に陸斗は振り返り、歯を見せてニカッと笑った。


「まずはお袋に報告しないとな」


その言葉に鈴華は目を見開き、花を咲かせるように微笑んだ。


「はい!」と明るく返事をし、陸斗と一緒に走っていく。


人は出会いによって変われる。


弱さを知り、そんな自分に苦しみながらも未来へと向かって進んでいき、強くなれるんだ。


たくさんの愛情が陸斗に人とのつながりを意識させた。


鈴華に一途な想いを向けられ、自然と心惹かれ、愛情を思い出す。


人と人のつながりをもう一度信じてもいいかもしれないと、陸斗は苦しみより未来を生きる道を選び取った。




***



公園から去っていく二人に、工藤は圧倒され、立ち尽くす。


意外とあっけらかんとした陸斗に度肝を抜かれ、だんだんとおかしくなって腹を抱えて笑い出した。


「ははっ、オレが心配するまでもなかったな。……ずっと家族のために頑張ってきた男だ」


「よかったですね、工藤さん」


「よかったのか? あんた陸斗のこと好きだったんだろう」


デリカシーのない工藤の問いに、志緒利は鼻で笑いとばす。


「昔のことよ。今は二人の関係を応援したいと思ってるわ」


強気な志緒利に、工藤は申し訳なさそうに眉を下げて微笑む。


「すまなかった。ありがとう、志緒利さん」


「……別に。ただの患者さんならここまで肩入れしなかったから」


「――そうか」


追究はしない。


工藤は空を見上げると、眩しく照り付ける陽射しに目を細める。


今日も暑い。


だが夏ももう終わりだ。



――答えが出たわけでも、何か変わったわけでもない。


それでも一歩踏み出せたような気持ちになれる。


それだけで充分だと――。


手を繋ぎ、照り付ける太陽の下、笑いあう一組の男女がそれを表していた。

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