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第4話「恋の余裕」

“卵焼きですわね。わかりましたわ”


”がんばって作りますわね!”


”お仕事で疲れてるだろうと思うので今日はこの辺にしておきますわ”


”また明日、会いにいきますわ。おやすみなさい”



連続して送られてくるメッセージに陸斗は罪悪感に苛まれる。


鈴華は少し暴走が激しいだけで、根はとても素直でよい子だ。


だから余計に突き放さなくてはならない。


今は働いて生活するのが精一杯で、誰かと付き合っている余裕はないからだ。


(この生活も……ずいぶん経ったな)



高校を卒業してすぐにこの仕事に就いた。


大学に進学したい気持ちは捨てられたが、年頃のため彼女は欲しいという時期もあった。


仮に誰かと付き合ってもすぐに別れるという状況が続き、相手にも失礼だと仕事一筋に生きるようになった。


忙しくはあるものの、大手企業の系列企業のためか、同じ職種でも比較的高給取りな方ではある。


それでも陸斗は常に金欠で、一円でも多く稼ぎたい思考でいた。



「本気って、なんだろうな……」


誰かに本気になったことがない。


例え鈴華と付き合っても傷つけることしかできないだろう。


そんなことを考えていたら食欲が失せてしまい、ベッドの上で腕を放り出したまま目を閉じる。


「恋愛してる余裕なんかないんだよ、俺には……」


静かな部屋に陸斗の声が寂しく響き、すぐに疲労で意識を手放した。





どんなに疲れていても容赦なく、次の日は訪れるもの。


繋ぎを着て作業を開始する。


今日もまた燦々たる陽光が降り注ぎ、体力を奪っていった。


「はぁ……」


疲れているとため息は増えてしまう。


しかし働かねば生活もままならない。


大切なのは何よりも”お金”だ。


お金がなくては生きていけないし、なによりお金がなくては何も成せない。



愛より金。


それが陸斗の思考であった。


「俺はひねくれてるな……」


自嘲するように笑い、手の甲で汗を拭うと仕事を続ける。


このおよそ一週間、何度思っただろうか。


鈴華の気持ちを利用して金を手に入れようと。


彼女は正真正銘のお嬢様で、上手くいけばお金を巻き上げることだって可能だ。


何度も思った。


けれどもそんなこと出来なかった。


純粋に好きだと言ってくれる彼女を、卑下に扱うことは出来なかった。



それだけでない。


彼女といれば自分の醜さを実感させられてしまうから。


真っ白な彼女を汚してしまうだろう。


その前に早く諦めてくれればいいんだ。


諦めて、他の誰かと幸せになって、未来を築いていけばいい。


お金欲しさに少しでもそんなことを考えてしまっていた。



最低だと思われても構わない。


お嬢様のおままごとには付き合っていられないから。


そんなことを考えているうちにいつのまにか休憩時間となり、あまり作業に集中できなかったと周りに申し訳なくなった。


作業が遅れればそれだけ周りの負担が増える。


午後はシャキッとしようと、陸斗は作業場から離れるとペットボトルの水を一気飲みした。



「陸斗。今日鈴華ちゃんは来ねーの?」


同じように休憩に入った秀一と公園に向かって歩いていると、当たり前のように訊ねてくる。


それくらい今では鈴華がお昼休みに顔を出すことが決まり事になっていた。


「……知らん」


いつもなら鈴華は休憩の前に必ず来ているのに、今日に限って来ていない。


何かあったのだろうか。


昨日鈴華が弁当を作ってくると言っていたので、昼食を用意していない。


さすがに心配……と思いかけて首を横に振る、

あちらが勝手にしているだけで陸斗が気にする理由なんてないはずで……。



「オレ、飯買いに行くけど陸斗どうするー?」


「あー……もうちょっと、ここに残るわ」


「りょ~(了解)」


秀一がお昼ご飯を買いに行き、一人になった陸斗は汗のにじみ出る拳を握りしめ、脱力するようにベンチへ座りこんだ。


どこかで期待していたのかもしれない。


自分がバカらしく思えてしまい、やけになって髪を掴んでうなだれた。

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