第39話「ふいうちキュンですわーっ!!」
家に帰ってからも鈴華はなかなか寝付けずにいた。
工藤と話す前に比べたらすっきりした気はする。
悩んでいても仕方のないことだ。
悩んでいる暇があるのならば、不安が取り去られるくらいに陸斗に愛を伝えたい。
難しいことを考えるのは得意ではないから……行動で愛を伝えるのが鈴華の生き方だ。
陸斗を想う気持ちは志緒利にだって負けない。今なら自信をもって言える。
誰よりも、陸斗が好き。
陸斗を支えられるようにもっともっと強くなろう。
変わらない。
この気持ちだけは変わらない。
「私はきっと……陸斗と出会うために、愛するために生まれてきたのですわね」
自分の左手を見つめ、ふとつぶやく。
大げさのように思えるその言葉こそが、陸斗を想う気持ちすべてが詰まった言葉だ。
脆くて弱いつながりなのかもしれない。
だけど弱さもなにもかも受け止めて、これからも陸斗を愛していこう。
そう心に刻んだ鈴華はそのまま眠りへと誘われ、目を閉じた。
***
工藤と鈴華が話し合いをしてから一週間が経過した。
陸斗は朝早くから仕事場に向かい、前日にお泊まりをした鈴華と途中まで一緒に歩いていた。
勤務時間までは一緒にいたいと鈴華が甘えん坊になり、徐々に増えていく社員たちに野次を飛ばされながら時間を過ごす。
しばらくすると秀一も訪れ、何気ない一日が訪れようとしていた。
「陸斗。ちょっといいか?」
出勤してきた工藤が視界に入り、声をかけられると、陸斗の表情はすぐに険しくなった。
「何の用だよ」
「ここでは話せない。まわりに迷惑をかけるわけにはいかないから」
陸斗はドスの効いた声で工藤に対峙する。
怒りを含んだ声は、どんなに陸斗を愛していても怖く感じると、鈴華は身を強ばらせた。
工藤の望みは知っている。
陸斗の怒りも苦しさも理解したいと思っている。
怖いのは本能的な反応であり、陸斗に対してではないと鈴華は唾を飲み込んで肩を広げた。
「私、監督さんにお時間をいただくようお願いしますわ。行きましょう、陸斗」
「! 鈴華、お前……」
鈴華が何かを知っていると察した陸斗は、とっさに鈴華の手を振り払ってしまった。
工藤の驚いた表情と、鈴華の悲しそうに見つめてくる姿に、陸斗は自分だけが何も知らないとカッとなり、頬を赤らめた。
「鈴華はわかってるんだな」
陸斗の言葉に鈴華は小さくうなずいた。
二人が陸斗の知らないところで接触していた。
無断で鈴華に接触した工藤に対して怒りが芽生え、不甲斐なさに己を殴りたくなった。
決まり悪さに目をそらすと、鈴華が焦燥感に駆られて陸斗の腕をつかんできた。
まるで弁明しようとしているように見えて、陸斗はますます恥ずかしくなって歯を食いしばった。
「陸斗、お願いです。叔父様の話を聞いてあげてください。どうしてもこのことは陸斗に知ってもらいたいのです」
「聞いて……どうなるんだ」
「どうなるかは陸斗次第ですわ。私には答えられません」
これでは自分が駄々をこねる幼児みたいだ。
鈴華に先を行かれるばかりで、いつまでも過去に囚われている自分の足元は暗いまま。
「……わかった。聞くだけ聞く。だが」
陸斗は鈴華を一瞥した後、工藤に目を向けて鋭い眼光で睨みつけた。
「鈴華も同伴することを許してもらう。俺だけだったら……お前を殴らずにはいられないだろうから」
「構わない。……彼女にももう一つ、話しておきたいことがあるから」
工藤の言葉に鈴華は目を見開く。
陸斗に対する謝罪の気持ちは知っているが、もう一つ伝えたいことがあるようで、それに関しては何の情報もない。
鈴華の動揺を陸斗は知る由もないが、心配して行動しているのはよくわかっていた。
不安定な気持ちのまま、汗ばむ手を鈴華の手に触れさせた。
「! 陸斗?」
「傍に、いてほしい」
「……はい。当然ですわ」
鈴華は決して陸斗から離れたりしない。
陸斗の手に指を絡ませると傍にいるよ、と心から伝える。
それから監督に一言告げ、迷惑をかけることに謝罪しつつ工藤とともに近隣の公園まで足を運んだ。
公園には人影が一つ。
「志緒利……?」
赤いルージュが印象的な女性。
志緒利はベンチから立ち上がり、ヒールをカツカツと鳴らして歩いてくる。
三人がこの場を訪れることがわかっていたかのように、にこやかに微笑む。




