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ななしのよる 6
あたたかな体温のぬくもりを感じた。
僕は、そのふわふわとした子犬を、なかなか放すことができなかった。
なぜだか懐かしい想いが、胸にあふれてくる。
子犬は鳴いたり吠えたりしない。
僕が顔をのぞくと、ただじっと、僕の目を見つめ返してくる。
静かな目をした犬だった。
「お前、どこから来たの?」
そう言っても、子犬は黙って僕を見ているだけだ。
「もう、お帰り」
そのあたたかさに僕の腕はためらいながらも、子犬をそっと放してやった。
微かに熱の余韻が残る。
名残る気持ちを抑えながら、路地を抜けようと歩き出す。
狭く暗い道は、明かりのもれる通りへと運んでくれる。
立ち止まって振り返ると、足元にさっきの子犬がいた。
僕が歩き出すと、子犬も僕と同じ方を歩いてくる。
――迷子か、捨てられたんだろうか。
「着いていく人を間違ってる」
子犬は黙って僕を見上げながら、足並みを合わせようと歩を進める。
――これからどこへ行けばいいんだろう。
僕も子犬も、そう変わりはなかった。




