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ななしのよる 5
泣いても痛みは消えなかった。
――痛い。
僕は胸を押さえながら、こらえた。
苦しみにもがくことしかできない。
そうして、どれくらいの時間が経っただろう。
締め付けるような痛みは緩みはじめ、動悸もおさまり、僕は呼吸を整えようと大きく息を吐いた。
そこではじめて、自分のほかに誰かがいることに気づいた。
気配を感じたからだ。
見られていたという思いに我に返り、僕は慌てて顔を上げ、周りを見回す。
探し出した視線の先をたどると、そこには小さな瞳が二つ、じっと僕を見つめていた。
その瞳は侮蔑やさげすみといったものではなく、決して僕を傷つけるものではなかった。
ただ、心配そうに、黙って僕を見ている。
その目に心が安らいでいくのを感じ、僕は立ち上がって近くに寄って行った。
その瞳の持ち主は、僕よりも、もっと小さな存在だった。
抱きかかえてやると、涙で濡れていた顔を舌で舐めてくれた。
柔らかな栗毛の子犬が、僕の腕の中にいた。




