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ななしのよる 26
ここがどこだかわからない。
ただ、一歩、右足を前に出し、そして一歩、左足を前に出す。
目の前は闇で、目を開いていてもつぶっていても、同じことのように思えた。
道を、歩いているのだろうか。
駅を後にし、無意識のうちにあの橋の方へと向かって行った。
だけれど、今はもう、ここがどこなのか、自分がどこに向かって歩いているのか、わからなかった。
――また、一人になってしまった。
全身の血が氷水にでもなったかと思うほど、冷たかった。
そこへ夜気が通り過ぎて行くのだから、しみるような寒気となって僕を襲った。
それもどこか、遠い自分に起きているような、現実感の薄い感覚。
ふと、あの子犬が頭の隅に現れ、抱きしめた時の熱を思い出した。
その途端、心臓の下のあたりが刺されたように痛み、息を吸うことができなくなった。
僕は胸を押さえ、その場にひざをついた。
――こんなのって、ひどいよ……。
ひどいからといって、いったい誰に訴えればいいのか。
誰にも届きはしない。
寒さも、痛みも、感情も、ただこうやって食いしばるしかないんだ。




