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ななしのよる 24
闇が、再び電灯の光を包み込んでいた。
小さな風が吹いていて、僕を通過していく。
僕の体は何もさえぎるものがなかった。
すべてが筒抜けていく。
僕はこれから、どうすればいいんだろう。
横にいた女の人は、はじめに見た時と同じように、駅の長椅子に腰を下ろした。
両の手をひざの上に置き、少し肩を落として、あの時よりもほんの少し、深くうつむいて。
「行かないんですか」
僕はそう言いながらも、いったいどこへ行くのだろうと、自分に問いかけていた。
「私はここで、あの人のことを想っている」
女の人が言った。
「ここでずっとあの人を想い続ける。
あの人がいなくなったからといって、ほかに誰か、ということは、私にはできない。
だからここで…… こうやって……」
それはさびしいことだと僕は思った。
それは、つらいことなんだ。
でも髪の向こう側へと隠れてしまった女の人からは、それを読み取ることはできない。
「私の好きな人は、一生のうち、彼ひとりだけ」
想いの言葉だけが、そこにポツンとあった。




