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ななしのよる 23

 何か空気の切り裂くような音が聞こえてきて、意識が大きく跳ねた。


 それは不吉な執行の合図のようで、僕を僕の中へと連れ戻した。


 お別れだと思った。


 無理矢理ひきはがされるような別れだ。


 僕は子犬を自分のもとへ引き寄せようとするのだけれど、それは自分の内側の幽霊のような部分だけで、体は何か、目に見えない大きな力のようなものによって阻まれ、縛られたかのように、指先ひとつすら動かすことができなかった。


「おいで」という聞き覚えのある声が、奥の方から聞こえてきた。


 今まで僕を見ていた子犬はその声を聞くと、とと、と中へと駆けて行き、座席に座っていた先生のひざの上へとおさまった。


 先生は子犬の頭をなでながら、僕の方を見てほほえんでいる。


 子犬も先生のひざの上から、僕を見つめていた。


 僕は自分だけ置いていかれたような、枠の外にいるような、そんなさびしい気持ちになった。


 ただ見つめることしかできない。


 きっとあの女の人も、ただ、見つめ続けているんだろう。


 言葉の何一つも出てこなかった。


 僕はただ立ち尽くし、ぬくもりや、思い出や、遠のいて行く光を、そこで見つめ続けることしかできなかった。

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